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生き返り  作者: 夢島 空
12/21

第十二話 日記帳

少年と約束した土曜日までの間、私は続けて夢を見た。

一つはタカヒロがとうとう戦争に行ってしまったときの夢、そしてもう一つはケイジロウと夫婦になり一緒に過ごしている夢だった。

心が折れてしまうような感覚を覚えながら朝を迎えると、私の中にまだサヨが残っていて涙が自然と頬を濡らしたりもした。

そしてとうとう土曜日。私は少年と約束した時間に間に合うように用意をし少年に教わった住所を目指し歩き始めた。


”とうとう、今日、真実が分かる。”


私の中ではほぼ、この不思議な夢は何かを訴えてることは既に分かっていたし、私の前世もサヨなのではないかと薄々は気づいていた。しかし何より知りたかったのは、あの少年が本当にタカヒロの生まれ変わりで私に会いに来てくれたかどうか、だった。


そして家から歩いて20分くらいのところに少年の家があった。二階建ての大きな家で庭にはゴールデンレトリバーが飼われている。しっかりと綺麗になれた庭を見るとお金持ちの子なのだろうと伺える。そして二階に目をやると外にいる私に気付いたように、少年が窓から顔を出した。そして指で下に行くから、と合図するように消えた。


「どうも。入って。」


白い扉が開くといつもの中学生ぽい服装ではなく、首元がVになった半そでのブルーのシャツにジーンズ姿の少年が手招きしてくれた。いつもより大人っぽく見える。


そして中に入ると目の前に大きな階段があり、両サイドにいくつか扉が見える。


「こっち。この和室。」


少年はキョロキョロ家を見渡す私を誘導するように和室へと案内してくれた。

部屋の大きさは8畳くらいだろうか。洋室の雰囲気漂うこの家の中、この和室だけは別世界のような雰囲気が漂う。天井近くの壁には魚拓が堂々と掲げてあった。

そして和室の中央にある立派な木でできた机の上に古いアルバムや、手紙などが用意してあった。


「これ。たぶんこれがじいさんの遺品。」


少年は床に座り込むと古いアルバムを一枚一枚開き始めた。私は黙ったまま少年の隣に座り、釘居るようにアルバムを見つめた。



「あっ・・・居た。」



私はこぼれるように言うと、少年は横にいる私を見た。


「タカヒロさんだ。そしてこれが・・・サヨ・・さんでしょ?」


「うん。そうだよ。俺のばあちゃんだよ。」


探すこともなくタカヒロとサヨの写真は次から次へとたくさん出てきた。そして私が初めに気づいた写真はよく夢に出てきた海辺に三人でポーズを取りながら写っていた。

次のページも次のページも、このアルバムにはタカヒロとサヨの姿が絶えず現れた。


「本当だったんだ。やっぱりただの夢じゃなかったんだ。」


私が呟きながらアルバムのページを捲ると、そんな私を少年は黙って見つめていた。

そして机の上に置いてあったケイジロウの日記を見つけた少年は、横でアルバムに見入る私にあるページを見せてきた。


「これ。読んでみて。昨日見つけたんだ。」


渡された日記を手に取ると、なんとも達筆な文字でかかれ読むのは簡単ではなかった。しかしこの日記の雰囲気から見るとかなり古い。


”七月七日 本日七夕


隆弘が戻らず

小夜は毎日元気がない

七夕の夜も私の願いは届かないか。

もしもの時は、私がきっと小夜を守ると隆弘と約束をした。”



隆弘ってこう言う漢字を書くんだ。小夜も。

なんて関心しながら次のページを捲った。




”七月十三日 今宵満月


隆弘の安否が伺われる

小夜は食事も取らなくなった

私にできることは一体何か。”




”七月二十日 


とうとう電報来る。

隆弘は英雄となりて小夜はとぎ伏せた。”




私の目から自然と涙が流れ落ちる。少年は隣で私を見ると黙って立ち上がり和室を出て行った。

私はそのまま日記のページを捲った。




”九月九日 晴天


隆弘思いて小夜が寝込む。

私は毎日小夜の家に寄るが、小夜は前より白く細くなっていく。

明日は小夜の好きな和菓子を持っていこう。”



”九月二十日


とうとう小夜は衰弱し始めた。

ここ三日ほど眠りについたままだ。

私は毎日神社へ向かい祈りを続けるだけ。”




ケイジロウはずっと小夜を思い、こんなにも尽くしてくれていたということが日記から伝わってきて、涙を止める事ができない。台所から麦茶を持って少年が和室に戻ると私の涙で濡れた頬を見て、そっと麦茶とティッシュを机に置いた。私は片手で涙をふき取りながら、ページを捲り続けた。

そしてとうとう、大事な場面が見つかった。



”九月二十五日


小夜が隆弘に夢で会ったと言った。

そして隆弘が小夜に私と共に生きろ、と言ったようだ。

実は私も同じ頃、隆弘の夢を見た。

いつもの海辺に二人で座り、たわいのない会話をしていた。

突然隆弘は言った。「そろそろ行かなきゃならない。」と

私は止めたが、駄目だと言った。

そして「小夜を頼む」と言って夢覚めた。”



やはり隆弘は死んで二人に会いに来たのだ。そして小夜を心配し二人が結ばれるように夢に出て頼んだと、この日記には確かにそう書かれている。

その後、小夜とケイジロウは1年ほど経って婚約し、結婚したが小夜の中には隆弘がまだ生きていて、それを受け入れる努力をケイジロウがしていた事や、何度か二人の夢に隆弘が出てきたことが書かれていた。


そして一冊の日記が終わり、次にまださっきのより新しく見える日記帳を手にすると、1ページ目には驚くべきことが書かれていた。





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