3話、学校とマル
〜3話、学校とマル〜
とある家の前、僕はその中から人が出てくるのを待っていた。
「いってきまーす！」
家の中の方から聞き慣れた声が聞こえてくる。それが僕が一緒に登校をしようと待っていた人物の声だと、僕はすぐに判った。
その声の主に、僕は優しく挨拶を投げかける。
「おはよう、クロス」
クロスだ、彼がこちらを向いて笑顔で返す。
「うん、おはようマルくん」
その声と同じように彼は優しくドアを閉める。
一緒に揃って通学路を歩くのは久しぶりだから、なんだか嬉しいような恥ずかしいような気持ちだ。
久しぶりに見る何度目かの制服姿は病院着とも数日前の私服とも違う雰囲気で、慣れててもむず痒い気持ちは変わらない。
その時僕は、前から気になっていた事を尋ねようとする。
「ねえ、クロス？」
「うん？ どうしたの、マルくん？」
少し不安な顔をしてしまったが、振り向くクロスにその顔を見せるのは良くないと思った。
こっちを向くと同時に、不安にさせないよう笑顔に戻そうと努めた。
さっきの顔を見られていない事を願う。
「もしさ、例えば僕が明日、急に学校を休んだらどうする？」
「そんなの、学校が終わったらすぐに家まで様子を見に行くよ？」
僕が言い終わると間髪入れずに返事を返された。
そんな返事を聞いて僕は少し安心した。
「そっか、だよね」
安心から、僕はその笑顔が自然と、より深まった。
「そういえば今日、クロスもまたあの二人にも会えるね？」
「うん、楽しみ。なかなかお見舞いにも来れないからね。」
あの二人、というのは僕とクロスそれぞれの元クラスメイトで、僕ら共通の友人たちだ。その二人は忙しくてクロスのお見舞いに行けていなかった。
…というのは表向きで、本当は僕とクロスを気遣って二人きりにしてくれているのだ。その話はクロスには内緒にしていて、でも毎回来ないのはおかしいから時々しか行っていない、という事だ。
二人で他愛もない話を続けながら歩いていると、その内に学校へと着いた。
そのまま僕らの教室に入ろうとした、その時不意に横の方から声が飛んでくる。
「あ、クロス…！」
僕らには聞き馴染みのあるその声は、クロスの名前を発した。
「あ…レクくん、久しぶり！」
レク、クロスにそう呼ばれた彼は僕らに目配せをして寄ってくる。彼が僕らの共通の友人の片方、新聞部の鹿獣人の鹿喰 輝豪だ。去年は僕のクラスメイトで今では一番教室の遠い組み合わせだけど、よく昼休みや帰りに一緒に話したりする仲だ。
「マルから聞いてたよ、今日クロスも来るって！」
「それじゃ、僕に会うためにわざわざ…？」
「ううん、ちょっと全部のクラスに配り物を渡してるとこで…」
レクが視線を下げた彼の手の中には、何かのプリントの束が複数あった。
「あ、それじゃ僕が預かっとくよ？」
「うん、お願い！」
僕はその紙束の一つを受け取った、するとレクが言った。
「ちょっと待ってて、トライ呼んでくる！」
残りの紙束を持ったまま、僕らとは隣の教室に行った。
それから少し待つとレクとは別の人、チーターの獣人が戻ってきた、トライだった。三箇 邦成、それが彼の名前。
「おはよう、トライくん！」
「おう、おはようさん、クロス。 元気そうでなによりだな。」
「うんっ、また四人で一緒にお昼ご飯を食べられるね！」
トライは陸上部のエースで、クロスの方の元クラスメイト。
「ていうか、レクは？」
「ああ、彼奴ならまた同じ新聞部のレッサーの奴に捕まってるぜ、てかＢ組に入ると毎回捕まってるよな…」
「あはは…あの人忙しないもんね…」
僕らの何度目かも判らない似たような話だけど、僕たちだったらいつまでも面白い話として話せる。時間を忘れてずっと話せる程に…と、気付くと時間を知らせるチャイムが鳴った。
「ごめんマル、クロス、トライ！ また昼休み！」
それと同時にレクが出てきて声を掛けてくる、や否や自分の教室へ走って戻っていく。
「それじゃ、僕たちも戻ろうか？」
僕は提案をする。
「うん、それじゃあまたお昼ね！」
クロスもトライに言った。
「おう！ じゃーな、頑張れよ！」
トライも言って、それぞれ各々の教室に戻った。
