1話、病院とマル
〜1話、病院とマル〜
雲に覆われた暗い空の下を、僕は幼馴染へ届け物をしに向かっていた。
地面で跳ねる水しぶきが、折角傘を差して歩いている僕の毛足の長い尻尾の先を濡らしてしまっている。
今日はこの大雨のせいで午前で学校は終わりになった、それによって時間が空いたので僕は病院に居る幼児期の頃からの幼馴染の元へ向かっているというワケだった。
彼——その幼馴染の事だ——は昔から繰り返し入退院を繰り返している。
その度に僕はできるだけ彼のそばに居ようとして、よく彼の病室へとお見舞いに行っていた。
なぜなら彼はその繰り返しの入退院生活の所為であまり友達が作れずにいたからだ。
僕は万々 瑠衣[まんま るい]、高校二年生になって早二ヶ月になる雪豹獣人だ。
病院への道はお見舞いの為に何度も歩いたことがあったので、特に迷うこともなく着いた。
傘をしまって、自分のスマホにメモをしていた病室の番号を確認する。
病室の前に着いた。
呼吸を少し整えて、ドアを軽くノックする。
「ん、はーい」
少し遅れて中から彼の返事が聞こえる、僕はそれを確認してからゆっくりとそのドアを開けた。
「クロス、元気にしてる?」
「マルくんか。うん、おかげさまでね」
彼の名前は黒巣 知垂[くろす しるしで]、先から話している幼馴染がこの人物だ。
「これ、今日の分のノートとプリントだよ」
僕は自分の鞄から取り出した物をクロスに渡した。
「いつもありがとね、マルくん」
「気にしなくて良いっていつも言ってるだろ?」
「うーん、それでもいつもこうして色々してくれてるだけでありがたいよ」
柔らかい笑顔を僕に向けるクロス。
「それにこの雨の中、学校からこの病院まで来てくれるってのも少し申し訳ないというか…」
「だーかーらっ、クロスが気にすることは全くないから、ね?」
「だってマルくんの尻尾の先、濡れちゃってるし…」
「ヘーキヘーキ、このくらい」
今日の大雨に備えて鞄の中に入れていたタオルを取り出して、僕は濡れた尻尾の先を拭う。
拭きながら、時折クロスの黒い羽並みをチラチラと見る。
ほとんどの時間をベッドに居るとはいえ手入れはしっかりしているのか、特に乱れた様子は見られなかった。
僕はクロスのその綺麗な羽並みが昔から好きだった。
退院中、一緒に外で遊んでいた時も気が付けばそこに視線が釘付けになっていた事もよくあった。
「ところでマルくん、もう少ししたらまた僕退院できそうなんだ」
「本当?それじゃあまた一緒に学校に行けるね!」
「うん、楽しみだね…!」
「あっ…ごめん、そろそろ時間みたい。じゃあまた来るから!」
「うん、またねマルくん!」
「またね、クロス!」
そして僕は笑顔のままその病室を後にした。
僕は知っている、クロスの入院の間隔が少しずつ狭まって来ている事を。