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異世界に転生して虚弱体質の村人になった俺が、唯一頼ることができるのはカプセルでゲットした魔法少女だけだった。  作者: ぢたま
一章 虚弱体質村人幼児がスライムに出くわして死にかけた後、魔法少女をゲットする話
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一章 虚弱体質村人幼児がスライムに出くわして死にかけた後、魔法少女をゲットする話08 - 転移先

 一章 虚弱体質村人幼児がスライムに出くわして死にかけた後、魔法少女をゲットする話08 - 転移先



「では、ダウンロードを初めます。送り先の情報を思い出してください」


 俺は言われたとおりに、日本にある病院の情報を思い浮かべる。

 何処までピンポイントに対応できるかは分からないが、できる限り詳細に思い出す。


「ダウンロードが完了しました。確認のため、マップを表示いたします」


 すると、それまでただ青白い輝きを放っていた床石の表面上に地図が表示される。

 それは見知った地図で、五年前まで俺が暮らしていた町の地図だった。

 地図の一部に、赤いマークが表示されているのが、ピンポイントの位置を示しているのだろう。

 さすがに地図に建物名は表示されていないが、間違いなくそこは病院だった場所だ。

 少なくとも俺の記憶の中ではそうだった。

 俺のいた日本とこの世界の時間の流れが一致していたら、多分まだそこに病院は存在するだろう。


「問題ない。その場所に運んでくれ」


 俺は許可を出す。

 この段階では未知のことが多かったが、それでもこのまま痛みを堪えていたくない。

 それになにより皮膚が溶け、筋肉がむき出しになっている状態を長く続けていたら感染症に罹る可能性が高くなる。

 俺の決断は遺跡のAIによって即時承認される。

 何か特徴的な予兆とかいうものは何もなかった。

 ただ、俺は病院の駐車場に倒れていた。

 間違いなく、ここは俺が知っている病院の駐車場である。

 この瞬間に、モンスターとか飢えた獣から餌にされる可能性は当面なくなった。

 ところが困ったことに、今は夜であった。

 周囲に人通りはなく、どうやら深夜のようである。

 つまり、俺は誰に助けを求めることもできないということである。

 ここは救急指定病院の指定を受けているので、こんな時間でも受け入れはしてくれるが、俺がここにいる限り治療を受けることは絶対にできない。

 入口はわかっているので、そこまでどうにか移動する必要があった。

 そう思って立ち上がろうと足をアスファルトに付けた瞬間に、耐え難い苦痛に苛まれる。

 スライムに襲われていた時には、アドレナリンが全開になっていたおかげでこの痛さに耐えていられたのだ。

 その時よりも痛さが増したというわけではないはずなのに、一端命の危険が遠のいたと思ったとたん耐え難い痛みへと変わってしまった。

 でも、このまままではどうにもならない。

 這っていくか、転がっていくしか、痛みに耐えて歩いていくか。

 俺が選択したのは、三番目であった。

 足をつかずに這っていくのも、転がっていくのも限界がある。途中に段差があれば不可能だ。

 それにどのみち痛みに耐えなくてはならないのなら、一番早く移動できると思われるやり方をした方がいいだろうと思ったのだ。

 俺は上の服を脱ぎ、ナイフを使って2つに割く。

 それを両足にそれぞれ巻き付けてきつく縛る。

 アスファルトから受けるダメージを少しでも少なくするために、簡易的な靴を作ったのだ。

 そんな物を作ったところで、痛みはどれほども緩和されるわけではない。

 だが、ここまで来たら立ち上がるしかない。

 奥歯を強く噛み締めて痛みに耐えながらゆっくりと立ち上がる。

 バランスを取ることが難しくなるくらいに、細かくヒザが震えている。

 どれほどの痛みかを伝えるのは極めて困難だが、似たような状況で例えることはできる。

 床の上にカッターナイフの刃をずらっと並べた光景を思い浮かべてみるといい。

 その上を素足で歩いた時どうなるのかを。

 刃は簡単に肉に食い込み、切り裂き容赦なく切り裂きながらみじん切りにしていく。

 一歩踏み出す度に、足の裏に刃が食い込み血と肉とでグズグズにしていく。

 俺が感じているのは、そんな苦痛であった。

 耐え難い痛みではあるが、この痛みは生きていることの証であるのだと自分に言い聞かせる。

 しょせん気休めにすぎないのだが、何かにすがらなければ気が狂ってしまいそうであった。

 一歩進むのが拷問そのものであり、痛みに耐えながら地面に倒れないようにすることだけで精一杯であった。

 だが、それでも前に進まなければ、俺は助かることはできない。

 入口は駐車場の向こう側。

 歩けば一分とかからない距離であったが、今の俺にとっては遥か遠くに見えた。

 俺はそれでも、また一歩前へと踏み出し、ピュアな苦痛に苛まれる。

 恐ろしい苦痛を感じながらも、それでも永遠の距離ではないのだと自分に言い聞かせる。

 苦痛を感じた分だけ確実に、ゴールへと近づいている。

 この時俺が感じていた世界は、病院の入口と駐車場と、そしてなにより拷問のごとき苦痛であった。

 だからだ。

 俺は気がつかなかった。

 世界に微妙なズレが生じていたことに。

 それに気がついたのは、光に気がついたときであった。

 辺りが妙に明るい。

 だが、その光は明らかに奇妙だった。

 どこからか差し込むわけではない。

 少し先を見れば真っ暗なままであり、光がまったく届いていなかった。

 どうやら、大気が光を放っている。


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