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異世界に転生して虚弱体質の村人になった俺が、唯一頼ることができるのはカプセルでゲットした魔法少女だけだった。  作者: ぢたま
一章 虚弱体質村人幼児がスライムに出くわして死にかけた後、魔法少女をゲットする話
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一章 虚弱体質村人幼児がスライムに出くわして死にかけた後、魔法少女をゲットする話06 - 瀬戸際

 一章 虚弱体質村人幼児がスライムに出くわして死にかけた後、魔法少女をゲットする話06 - 瀬戸際


 今この時が、俺がこの危機を脱出できる最後のチャンスだった。

 俺の両足は、灯油をかけて火をつけたときのような苦痛に苛まれている。

 だが、本当はこの状態が苦痛の頂点ではなかった。

 これからやろうとしていることは、さらなる苦痛を伴うことになる。

 しかも、一度初めたらどんな苦痛を感じようと、生き延びるまでやり続けなくてはならない。

 死んだ方がましだと思えるほどの痛みを感じたとしてもだ。

 俺はまず失禁をする。

 今までずっと我慢していたのは、この瞬間のためである。

 尿が俺の足を濡らして、皮膚が溶けた足を刺激して苦痛はさらに増した。

 ただ、それは苦痛のきっかけに過ぎない。

 皮膚と血液の中に尿が混ざった瞬間に、俺は五歳児に出せるありったけの力を絞り出して左足をスライムから引っこ抜く。

 意外と少ない抵抗で左足は抜けて、すぽんというユーモラスに音を立てた。

 だが、少しも面白くはない。

 筋肉がむき出しになった俺の足は、その瞬間の刺激でそれまでとは比較にならない強烈な痛みを俺に与えてくる。

 続いてすぐに右足を引っこ抜く。

 やはり、すぽんというユーモラスな音が聞こえた。

 俺の足の苦痛は二倍になったが、止まることは出来ない。

 生き延びるための、最後の闘いはすでに始まった。

 その闘いとは歩くこと。

 ただ一歩踏み出す度に、このまま死んでしまった方が楽になるというような苦痛と闘わなくてはならなかった。

 それでも、なを筋肉がむき出しになったままの足を前に踏み出すことができるのは、死への恐怖などではない。

 そんなものは、想像すらしたことのない苦痛の中で吹き飛ばされている。

 俺が今足を前へと踏み出しているのは、前世の記憶があるからだ。

 あまりに惨めな人生と、突然やってきたあまりに情けない死。

 今俺の中にあって、突き動かしているのは、矛先を向けようのない憤怒であった。

 俺にとって死というものは、屈辱そのものとなっていた。

 だからこそ、死んだほうが楽になれると分かっていても、俺は足を動かし続けているのだ。

 走ることは出来なかったし、足が床石に触れる度に強烈な苦痛によって一瞬動きが止まってしまう。

 それでも絶望を感じることがなかったのは、グロテスクな姿になってしまった自分の足から伝わってくる強烈な苦痛ゆえである。

 俺はついさっきまで火柱となっていた円柱に飛びつくと、それをよじ登ろうと試みる。

 腕を回し、足を絡ませてよじ登ろうとしても、五歳児の俺にとってはあまりに大きすぎて、まったくうまくいかなかった。

 周囲をスライムに囲まれて、逃げ出したスライムも追いかけてくる。俺の体を消化している最中で動きは遅いと言っても、肉がむき出しになっている俺よりは遥かに早い。

 俺が助かる唯一方法は、ここを登って上に逃げるくらいしかなった。

 あまり時間はなかった。

 俺が二度目のトライをしようとした時、すでに俺の足をふたたびスライムが飲み込もうとしていた。

 ちっと触れただけで、とびあがりそうな激痛が走る。

 俺は、文字通りに飛び上がって、円柱に両手両足を使って抱きついた。

 両手に力を込めることで、どうにか初めに抱きついた場所にへばりつくことができた。

 ただ、それが精一杯でその高さから上には一ミリも登ることはできない。

 幸いなことにスライムは硬くなめらかな表面を持つ円柱を登ってくることは出来ないらしく、俺の足元で透明な体表をうねらせていた。

 スライムに脳みそなんてないはずなのに、獲物が上にいることは理解できるらしく、何処かに行ってくれそうな気配はない。

 しかも、俺が脱出したことで一旦は獲物を諦めた他のスライム達が、またワラワラと俺がしがみついている円柱の周りに寄ってきていた。

 もちろん何匹スライムがいようと、次に一匹でもスライムに捉えられたらもう逃げ出すチャンスはない。そこで、俺の人生は本当におしまいになる。

 たった5年で。

 そう、俺は五歳児に過ぎないのだ。

 強烈な痛みと共に、疲労が押し寄せてくる。

 長時間しがみついていられるような体力なんて最初から存在していないのだ。

 最初は手が震え出した。

 次に息苦しくなった。

 皮膚がなくなって、筋肉がむき出しになっている足は、最初から役になどたっていなかった。

 せめて、俺がしがみついている円柱に、なにか突起物なようなものでもあり、手をかけることができたなら、もう少しは持つことができたるだろう。

 今のままなら、スライムの上に落下することになるのは時間の問題であった。

 少しズリッと来た。

 体力に限界がきたのだ。

 もう一回、ズリッと来た時である。

 俺の両手が何か窪みのような物にひっかかった。

 さすがにもう最後の瞬間を迎えるのだと覚悟していた俺だが、その窪みにひっかかったおかげで落下が止まった。

 奇跡が起きたのだと思ったが、それは奇跡の始まりにしか過ぎなかった。


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