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異世界に転生して虚弱体質の村人になった俺が、唯一頼ることができるのはカプセルでゲットした魔法少女だけだった。  作者: ぢたま
一章 虚弱体質村人幼児がスライムに出くわして死にかけた後、魔法少女をゲットする話
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一章 虚弱体質村人幼児がスライムに出くわして死にかけた後、魔法少女をゲットする話05 - とける足

 一章 虚弱体質村人幼児がスライムに出くわして死にかけた後、魔法少女をゲットする話05 - とける足


 いつそれを掴んだのか、まったく記憶になかった。

 月から降りてくる冷めた光の中で、自分の手の中の物を見てみる。

 それは球体であった。

 月に向かって翳してみると、球体を通して向こう側に月が見える。

 透明なカプセルだった。

 俺はこのカプセルを見たことがある。

 いつ何処でだったか、どうしてもはっきりとは思い出せないが、確かに俺はこれを手にしたことがあった。

 だからと言って、俺にこのカプセルがなんなのか分かっていたわけではない。

 だが、今はとりあえず生き延びるために使うしかない。

 背後から近づいてきたスライムに向かって投げつけてみる。

 すると俺が投げた透明なカプセルは、スライムに取り込まれることなく跳ね返され、空中でポンと小さな音を立てて消えてしまった。

 まるでシャボン玉が消えるみたいな感じであった。

 もしかして、なにか凄い武器かなにかで、スライムを斃してしまえるのではないだろうか……などという妄想もシャボン玉の様に弾けて消えてしまう。

 現実にはカプセルが命中したスライムは、まったくダメージを受けていなかった。

 取り込んでいないのだから当然だが、石を投げた時のように動きが遅くなってもいなかった。

 結果として足止めの役割すら果たせていない。

 つまり、俺が投げたカプセルはまったくの役立たずであった。

 一体このカプセルがなんなのかはさっぱり分からないが、今俺が生き延びるためには使えない。

 なのに、俺は右手にまた透明なカプセルを握っていた。

 まったく役にたたないことは分かっていた。

 だけど、すぐそこにまで近づいてきていたスライムに抵抗する手段は、もうこれしかない。

 だから、思っきり投げる。

 さっきよりも、ちょっぴり勢いよくスライムに跳ね返されて、小さくポンと音を立てて消えてしまう。

 やっぱり、なんの意味もなかった。

 俺の右手には、またカプセルがあった。

 何度投げても、このカプセルは俺の手の中に戻ってくるのだろう。

 それが分かったところで、どうにもならないのだが。

 いずれにしても、俺にはもう何かを考えたり迷ったりするような時間は無くなった。

 スライムは1メートルほどの距離まで近づいた瞬間変形して、一瞬で俺の足に巻き付いて取り込んでしまう。

 逃げようとはした。

 でも、足は動かせない。

 それだけではなく、まるで火を押し付けられたような激しい痛みを感じている。

 酸によって溶かされている。

 表皮はすぐに溶かされて、むき出しの足の肉と血管が現れ始める。

 毛細血管はすぐに破れて、透明だったはずのスライムが赤く変わり始める。

 俺の血液の色だった。

 俺の血の匂いに誘われて、他のスライムも次第に集まり始める。

 俺は、足を溶かされながら、それでも必死で立ち続ける。

 倒れたとたん、俺は全身をスライムに取り込まれて確実に死んでしまう。

 その方が楽になれるような気もするが、生まれ変わったばかりの世界でもこんな理不尽な死に方をするのはどうしても納得がいかなかった。

 だが、俺の足がスライムによって溶かされようとしているように、現実というのは常に最も残酷な装いをもってやってくる。

 想像したくなくなるような現実であっても、現実は消えてなくなったりすることはない。

 今、消えてなくなろうとしているのは、まさしく俺であった。

 親も村人も俺を助けてくれることはけしてない。

 これは、彼らが望んだことなのだから。

 もし、生き延びることができたとしても、彼らが受け入れてくれることはないだろう。

 もし仮に俺がモンスターを斃すことができる力を持っていることを証明できれば、家族の、あるいは村の役に立てる可能性が存在する可能性があるから話は違ってくるのだが。

 もちろんそんなことは希望的な予想に過ぎず、妄想のたぐいであるとしか思えない。

 ここで大切なのは、仮に誰かが通りかかったところで俺を助けてくれる可能性は存在しないということである。

 足の皮膚はすっかり溶けてしまい、血管と筋肉を溶かし始めている。

 激痛があまりに強すぎるおかげで、気を失わずにいられる。

 だが、筋肉を溶かされてしまったら、もう立っていることはできなくなる。

 その瞬間に俺の死は確定する。

 もちろん、今この状況がすでに死が確定した状態であるのだと誰もが言うだろう。だが俺は、この状況の中で生き延び続けようとあがいていた。

 どれほど現実が残酷だろうと、また何も出来ないまま死んでしまうのは嫌だったからだ。

 どんな苦痛であれ、自分の肉を溶かされていく苦痛を超える苦痛はそうそうない。

 そんな苦痛を耐えているだけでは、生き延びることはできない。それが現実だ。

 俺はこの状況を覆すために、本当に最後のあがきに出る。

 溶かされた足から、血液が流れ出している。

 ドロドロに溶けた皮膚と流れ出した血液が混ざって出来た液体が、俺を溶かそうとしているスライムの中に充満している。


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