一章 虚弱体質村人幼児がスライムに出くわして死にかけた後、魔法少女をゲットする話04 - スライム
一章 虚弱体質村人幼児がスライムに出くわして死にかけた後、魔法少女をゲットする話04 - スライム
月の明かりが寒々と、得体の知れない遺跡の全容を映し出している。知的好奇心を満たしてはくれるが、身の安全の役にはまったくたたない。
とは言っても、覆っていた苔が綺麗に焼け落ちて、綺麗な床石が顕になったこの場所よりも森の中の方が危険であるのは間違いないだろう。
もちろん、ビルの50階から落ちた方が安全か、それとも49階から落ちた方が安全かといった違いくらいしかないのだが。
俺にできることは、この場所で朝までモンスターとか獣とかに見つからないよう祈ることくらいだ。
何に祈ればいいのかはよく分かっていないのだが。
祈るかどうかはともかくとして、運が良かったらモンスターと遭遇しなくてすむだろう。
どうなるにしても、もう俺の意思ではどうにもできない状況であることだけは間違いない。
そして、その結果が出たのはそれから間もなくであった。
白銀の光が落ちている中。床石の上に、とてもわかりにくいが、何かが移動してくるのが見えた。
半透明で表面はぬらりと絶え間なくうねっている。
スライムであった。
動きも極めて遅く攻撃力も低い。最底辺に位置しているモンスターだった。
村人がモンスターとの闘いを覚えるための練習台としてよく使っていた。
安全なモンスターではないが、人間の大人なら棒きれ一つで十分戦うことができる相手である。
だが、五歳児でしかも虚弱体質の俺にとっては強敵過ぎる。
っていうか、まずもって勝てそうにもない。
もっとも、闘う必要はないし、そのつもりもなかった。
俺の目標はあくまで生き延びることであり、朝が来るまでの間逃げ回ればいいのだ。
幸いなことに、スライムの動きは早くない。
半透明のスライムはひどく見えにくいのだが、満月の光りがこれだけしっかりと降り注いでくれていればなんとかできる。
スライムは現れたが、この遺跡の上から外にでるつもりはなかった。
森の中に入ってしまえば、遥かに強いモンスターや獣のテリトリーに足を踏み入れてしまうことになる。
たとえばスライムならどうにか逃げ回ることは可能だが、狼相手に逃げ回ることなど不可能だ。
ぬらぬらと蠢きながら、スライムが近づいてくる。
まっすぐこっちに近づいてくる所を見ると、俺のことを餌だと認識していると考えていい。
最短で近づいて来てくれているので、その動きは読みやすく逃げやすい。
俺は円柱を利用し、反対側に回り込んでスライムから距離を取っていく。
それを繰り返すことで、距離を保っておくことができる。
この対応方法は、最初のうちはうまくいった。
だが、当然と言えば当然だが、状況というものは常に変化する。
逃げ回っている時に、左手からもう一つ別のスライムが姿を現したのに気がついた。
俺は慌てて周囲をもう一度見回すと、新たに姿を現したのは一匹だけではないことに気がついた。
俺の背後にも、もう一匹いる。さらに右手からも新たなスライムがやってきた。
俺は、完全にスライムに包囲されてしまっていた。
これが大人だったら、飛び越してもいいし叩き潰してもいい。
いくらでも対処する方法はあっただろう。
だが、あいにくと今の俺は五歳児だ。
戦って勝てる見込みは皆無に近いし、飛び越して逃げるようなことは不可能だ。
日本で死んだ時には、自分の体がひき肉になるのを感じながら死んでいったが、どうやらこっちの世界では自分の体が溶けていくのを感じながら死んでいかなくてはならないようだ。
世界が残酷なことはとっくに知っていたことだが、もう少しマシな人生を送りたかったなとはつくづく思う。
とは言っても、命が尽きるその瞬間まで生き伸びることを諦めるつもりはなかった。
だめ元で、近づいてくるスライムに向かって、野営用の仮設炉を作るのに使った石を取って投げつける。
五歳児が投げるのだ、スライムまで届かずに床石の上に落ちて転がっただけであった。
俺はそんなことなど気にせずに、さらに力を込めて投げてみる。
石は少し遠くに飛んだが、やはり届かずに落ちた。
しかし、三回目になると一回落ちてはずんだ石が、スライムに命中する。ボコッという音とともに石はスライムの体内に沈み込んだ。
スライムはしばらく動きを止めたが、すぐに動き始める。
石を取り込んだままだったので、動きは遅くなっていた。
俺は、すぐに別方向から近づいてきているスライムに向かって石を投げる。
命中して動きは遅くなったが、それだけだった。
俺はありったけの石を投げたが、スライムは数を増していた。
石が尽きると同時に、本当の意味で俺は万策がつきてしまった。
それでも、なにか投げつけるものはないかと周囲を見回してみる。
ところが石以外のはものは全て燃え尽きてしまっている。
今、石床の上に残っているのは灰だけだ。
とても投げられるようなものではない。
と、思っていた。
ところが、俺は右手に何かを握っているのに気がついた。