一章 虚弱体質村人幼児がスライムに出くわして死にかけた後、魔法少女をゲットする話02 - 間引き
一章 虚弱体質村人幼児がスライムに出くわして死にかけた後、魔法少女をゲットする話02 - 間引き
もし仮に、俺が勇者やどこぞの貴族などに転生すると言う、夢のような展開であったならこんなことにはならなかっただろう。
だがそれは所詮妄想だ。そんな夢見を見たところで、現実とはいうのは実に過酷だ。
五歳児の俺が身を守るものといえば、45年に及ぶ社畜人生の中で得た知識くらいのものだ。
ところがだ。システムエンジニアとして築き上げてきた知識は、少なくともこの状況の中では微塵も役にたったりしない。
そうこうしているうちに、大きく陽が西に傾いてきた。
まだ峠を登り切るまでには距離があり、このペースでいけば頂上に着く頃には日が暮れている計算になる。
おそらくこれは、母親の計算通りの展開だと言える。
陽が暮れてしまえば、獣達やモンスターが餌となる動物を求めて狩りを始める。
もちろん俺は餌候補第一号である。
同年齢の中でもちっこいし、そもそも身体の大部分が骨と皮だけて構成されているので、食べても喰いではないのだが、おそらく獣もモンスターもそんなことなど気にしないだろう。
そうならないように俺が打てる手段としては、陽が落ちてしまう前に野営の準備をすることくらいだ。
俺は歩きながら、身を隠すことができるような場所を探す。
ただ、完全に道から離れしまうと、強力なモンスターに出くわす可能性が高くなってしまうので、峠道からあまり離れた場所にはいけない。
そもそも、五歳児の俺には茂みの中を踏破できるような力はない。
最悪、峠道に石を積んで簡単な炉を作り、落ち葉と小枝を集めて火を起こし、道端で野営するしかない。
そんな事を考えていると、峠道のすぐ脇に奇妙な形をした石の構造物を見つける。
峠道から近かったし、それが何なのか確認してみることにする。
藪をかき分けて中に入ると、木々の中に円形の開けた場所に出た。
円の中心部には高さが10メートル、直径が五十センチメートルほどの円柱が建っていた。
その円柱を中心にして、半径10メートルほどの円形の石が敷かれて、床のようになっている。
緑の苔に覆われてはいるが、苔以外の植物は自生していない。
ここなら、野営するのによさそうな気がした。
ただ、どう見てもここは人工物のようである。
だが、何に使用するのか、皆目検討もつかない。
中心に建っている円柱の表面は苔むしているが、触ると簡単に苔は剥がれ落ちた。
落ちた後から円柱の表面がでてくる。
黒曜石のように黒々とした光沢を放っている。
どれだけの歳月放置されてきたのかわからないが、なめらかで傷一つついておらず、まるで昨日作られたばかりのように見えた。
この時点で、俺はここが何らかの人工物であることを確信した。
とは言っても、ここが何をするための場所なのか分かるわけではないし、そもそも喫緊の問題は野営するための準備をしなくてはならない。
まずは、近くから手頃の石を拾って来て、円形に並べて置く。
それが済んだら、できるだけ乾いた枝と落ち葉を集めてきて並べた石の中心に置いた。
ここまでは簡単だ、持ってくるだけなのだから。
問題はここからである。
火をおこす必要がある。
俺は、ポケットに入れてあった、小さなナイフを取り出す。
これは、自分用のものだ。
遊び道具は自分で作る。それが貧しい農家の子供の常識である。
これは、そのためのナイフであった。
だが、今から作るのは火を起こすための道具である。
なるだけまっすぐで長い枝が二本。丈夫な蔓。そして、火種を作るための土台となる太い枝。
枝の一本はナイフを使い先を尖らせる。もう一本は枝の両端に切れ目を入れ、そこに細く割いた蔓を挟んで弓状の物を作る。
太い枝を木目に合わせて縦に割って板を二つ作り、その一つを床状の石の上に置いた。
床石の上に置いた板にはナイフを使ってくぼみを入れておく。
先を尖らせた枝の先端をくぼみに入れてみて、一度手軽な長さに調整していく。
後は枯葉を細かく砕き、作業中に出た木くずと合わせて窪みの周囲においておく。
最後の仕上げに、弓状になっている枝の両端を結んで張っている蔓の真ん中辺りに巻きつける。
これで、簡易火起こし器の完成だ。
両手で挟んで錐揉み式にやるのは、五歳児の俺には無理なので簡易の火おこし器を作ったのである。
多少手間はかかったが、これでどうにかするしかない。
先を尖らせた枝を上下二つの板で挟むと、弓状になった枝を前後に動かし回転させて摩擦を起こす。
こんな道具を作っても、簡単には火を起こすことはできなかった。
それでも諦めることなく続けて、どうにか日が暮れる前には火を起こすことに成功する。
火種から慎重に育てた火は、ようやく焚き火となって煌々と燃え始めた。
後は一晩この火を絶やすことがなければ、どうにか生き延びることはできるだろう。
獣はもちろん、ナイトストーカーと呼ばれるたぐいのモンスターも、火を恐れるからだ。