一章 虚弱体質村人幼児がスライムに出くわして死にかけた後、魔法少女をゲットする話27 - 敵の居城へ
一章 虚弱体質村人幼児がスライムに出くわして死にかけた後、魔法少女をゲットする話27 - 敵の居城へ
俺からしてみれば、この話は胡散臭いほど都合のいい話であった。
普通に聞いたなら、到底信じられるような話ではないと一笑に付したことだろう。
だが、有紗自身が言ったことだが、今の有紗はカプセルの力によって俺の完全なる支配下に置かれている。
他の人間ならともかく、俺を欺こうという発想自体が不可能なはずだ。
だとしたなら、有紗の話はすべて本当のことだということになる。
なぜそうなったのかは、心当たりがある。
確認する必要があるかどうかは微妙だが、確認しておくことにした。
それは、俺自身を納得させるためである。
「もしこれから俺の言うことが正しければ頷くだけでいい。その決意をした理由は、俺の失われた左足と関係があるのか?」
その質問に、有紗はゆっくりと首を縦に振った。
やはり、これが有紗の責任のとり方だということなのだろう。
だとすれば、今の有紗は将来のミコであるということになる。
今はカプセルの中と外で分裂している精神が、いずれ一つに統合された時、有紗と同じようになる。
それは、一部俺と同化するということでもある。
「すまんが、松葉杖を持ってきてくれ」
転がって逃げたために、松葉杖は今手元にない。
「はい、マスター」
有紗は答えると、取りに行くのではなく魔法陣を空中に展開してそこから松葉杖を取り寄せる。
俺のすぐ目の前に、松葉杖が浮かんでいた。
松葉杖を手に取ると、魔法陣が消えて重力に逆らっていた松葉杖の質量が俺の手にかかる。
バランスを崩してあわや倒れそうになるが、なんとかそれを支える。
無茶をした右足は、まるで火をつけたような痛みを感じている。
もう痛み止めは完全に効果を失っている。
俺がずっと抱えてきたバッグの中に痛み止めはあったが、まだ使うつもりはない。
必要な投与量を調べる前に帰ってきてしまった。痛みがなくなるだけならいいが、もし感覚そのものが無くなってしまったら歩けなくなる。
それだけは絶対に避けなくてはならない。
たとえ、この苦痛から開放されるとのだとしてもだ。
グリフィンを斃したというのは大したものだが、俺の本来の計画とはなんの関係もない。
単に寄り道をしただけのこと。
本題はこれからである。
「有紗、戻すぞ」
一応一言いっておくと。
「また、私をお使いくださいマスター」
有紗はそれだけを言って頭を下げる。
俺は左手の中に有紗の入ったカプセルを戻し、手を閉じてカプセルを消失させた。
その後立ち上がると、俺は松葉杖を使ってアクセスポイントの中央まで移動する。
中央部には円柱がそのままあって、俺が近づくとオプティカル・スクリーンが展開される。
さっき俺が確認していたのとまったく同じ画面であった。
レジューム機能が働いたのだろう。
俺はスクリーンの前に立つと音声によって指示を出す。
「指定したアクセスポイントへの移動を準備してくれ」
俺が口頭で指示を出すと、オプティカル・スクリーンが目まぐるしく変化し始める。
そして、最後にマップ画面が他の画面の上に重なって表示された。
「座標を固定します。マスターによる承認をお願いします」
システムの音声によるガイドが聞こえてきた。
同時にオプティカル・スクリーンには承認のためのボタンが表示されている。
俺は、迷うことなくそれに触れる。
「承認完了。転送します」
システムによる応答があった瞬間には、周囲の風景は変わっていた。
森の中から、地の底に。
アクセスポイントから発生された青白い光が照らしていて、薄暗い中にぼんやりと周囲を照らしている。
その中で見上げると、螺旋状に道が遥か上へと続いていた。どこまで続いているのかは見ることはできなかった。
だが、何処に続いているのかは知っている。
そこに誰がいるのかも。
今からそこを目指さなくてはならない。
ここから先は、俺一人の闘いだ。
もっとも、スライムに襲われたらミコか有紗の力を借りなくてはならないだろが、登るのは一人でやらなくてはならない。
一番不安なのは、そこまで右足が持つのかということだが、痛みを感じているうちは大丈夫なはずだ。
痛みを感じなくなってきたら、俺の足が壊れた証拠である。
さすがに両足を失ったら、生きていけなくなるだろう。
これは、生き残るための闘いそのものであった。
俺は、松葉杖を握り直すと歩き初めた。
< 一 章 了 >
 




