一章 虚弱体質村人幼児がスライムに出くわして死にかけた後、魔法少女をゲットする話24 - 強敵襲来
一章 虚弱体質村人幼児がスライムに出くわして死にかけた後、魔法少女をゲットする話24 - 強敵襲来
左足を失い松葉杖に頼らなくてはならない俺に、長距離の登りはかなり困難な作業となるだろう。
付け加えるなら、残っている右足も重度の負傷をしており完治には程遠い状態だ。
螺旋状に伸びている道が斜面上になっているのなら、まだなんとかなるが、もし階段なら一人で登り切るのはほぼ絶望的だろう。
それはマップでは確認できないので、実際に行ってみるしかない。
なんにしても、俺には行かないという選択肢は存在しなかった。
俺は自分の両親から間引かれた存在だ。
自分が生まれた家に戻ることはできない。
口減らしのため、俺は死ぬためのお使いに出されたのだ。
俺が死なないと、家族全員が飢えることになる。
そう両親が考えたのならば、片足を失った姿でのこのこ帰ってきた息子を見たら、次は直接殺そうとするだろう。
それが現実なのだ。
自分が生まれた家でそれならば、他に何処に行ったところで同じである。
唯一俺が生き延びるチャンスがあるとすれば、それはすべての元凶を直接叩くことである。
つまり、俺の村に貧困をもたらし、領民から搾取を続けている存在を斃し俺がその地位を簒奪すること。
もちろん領民がそれを望んでいるのかどうかはまた別の話だ。
純粋に俺が生き延びるためだけの計画である。
俺が五歳児ではなく、理想主義に燃える大人であれば、領民を扇動し民主主義という御旗を掲げて、やがては王国全土に及ぶような革命を起こさせるという手もあるだろう。
もちろんそんなことをすれば、その後延々と血なまぐさい歴史が続いていくことになるのは地球の歴史を見ればあきらかだ。
フランス革命のことを少しでも知っているなら、それがどれほど悲惨な歴史であるのかはたやすく理解できる。
俺としてはさすがに俺一人が生き延びるために、そこまでやる必要はないと考えているので、領主の地位を簒奪して自分の身の安全が確保できればよかったのである。
とにかくこれは迷うようなことではない。
結果はどうあれ行くしか無いのだ。
俺がそう考えて、転移を実行するための指示を出そうとした時であった。
「警告します。六時の方向から危険が迫ってきています。危険レベルはレッド、直ちに対応をお願いします」
音声による通知があった。
俺が後ろを振り返ると、危険はすでにそこにあった。
スライムなどではない。
遥かに危険で致命的な獣。
鷲の上半身とライオンの下半身。
体高は五メートルを超えており、これと互角に戦えるのはドラゴンくらいのものだろう。
正直に言って、こんな所をうろつくような幻獣ではないはずだ。
俺もグリフィンが近くにいるなんて話を聞いたことはなかったし、実際に会ったという話も聞いたことがない。
大人どころか兵士が束になってかかったところで、斃せるような相手ではない。
だが今は、なぜこんな所にいるのかなんてことは重要ではない。
その視線は、明らかに俺に向けられている。
獲物として見てる、というわけではなさそうだ。
栄養失調気味で痩せすぎ五歳児が、グリフィンの餌となるには小さすぎる。
とてもではないが、食欲を満たすことはできないだろう。
それでも、グリフィンの視線ははっきりと俺に向けられている。
間違いなく、俺を狙っているのだ。
目的は食料ではない。俺のことをただ殺そうとしているのだ。
なぜこんなことになったのかは、たぶんだが俺がアクセスポイントを起動したからなのだろうと思われる。
俺がまたここに戻ってくるのを待っていたのだ。
アクセスポイントのエリアとなる、床石内にグリフィンは踏み込んで来こようとしてはいなかった。
だから、俺はまだ生きている。
もちろん、それで助かったというわけではない。
そうであるなら、システムが危険レベルレッドなどと言ったりはしないだろう。
なんらかの防御システムは存在しているようだが、グリフィンから俺を守り切ることはおそらく出来ないのだろう。
今なら、このまま転移して逃げることはできそうだ。
だが俺はそうしなかった。
これから先のことを考えると、今ここでグリフィンとの決着をつけておいた方がいい。
近くにいなかったはずのグリフィンがここに現れたということは、どこのアクセスポイントに移動しようとかならず狙ってくる。
不意をつかれたり、こちらにとって不利な場所での襲撃を受けるよりずっと有利な闘いができるはずだ。
俺が直接闘えるわけではないので、不意をつかれると圧倒的に不利な状況に立たされることになる。
そういうことを考えると、今ここで決着をつけてしまう方がいい。
怖くて震えが止まらないとしても。
俺は左手に意識を向ける。
俺が手にした唯一の力を使うために。
だが、おかしい。
意識を向けたとたん、左手に金色の光が走る。
ミコを呼び出そうとしたのに、カプセルは出現せず左手が金色の光に包まれる。
抵抗している、何がミコを呼び出そうとすることを邪魔していた。




