一章 虚弱体質村人幼児がスライムに出くわして死にかけた後、魔法少女をゲットする話20 - 帰還準備
一章 虚弱体質村人幼児がスライムに出くわして死にかけた後、魔法少女をゲットする話20 - 帰還準備
だから、それまでの間持たすための抗生物質が、どうしても必要であった。
もちろん俺には薬の知識はない。
だが、今俺に投与されている点滴の一つは間違いなく感染症を防ぐための抗生物質のはずだ。
まずは、それを聞き出す必要があった。
それも早急に。
病室の扉が開いた。
ノックなしでいきなりだ。
入ってきたのは女性の看護師。
俺の寝ている部屋は隔離室で、緊急を要する患者として扱われている。当然の対応である。
「ちょっと、ボク。起きちゃだめよ!」
ベッドの上にちょこんと座っている俺をみた看護師は、驚いて言ってくる。
俺はその言葉には反応せず、点滴の袋の一つを指さして尋ねる。
「おねぇちゃん、これは何?」
入ってきたのは20代の女性。
実年齢から言えば十分におばさんだし、中の年齢から言えばずいぶん年下の女の子。
いずれにしても、おねぇちゃんではないのだが、子供にとっては一番当たり障りのない代名詞である。
彼女は俺に近づいてくると、すぐに俺を寝かしつけながら答えてくれる。
「それはね、ボクが重い病気にならないためのお薬なの。だから心配しないでおやすみなさい」
彼女は優しく俺の肩の辺りをやさしくリズムを刻むようにトントンと叩きながら、小さな声で子守唄を口ずさみ初めた。
俺はゆっくりと目を閉じて、動かないようにする。
右足の痛みがなければ本当に寝てしまいそうであった。
だが、右足の疼く痛みに意識を向けることで、どうにか耐えることができた。
しばらくそうしていると、やがて歌声は聞こえなくなる。
さらにしばらく待つと、ドアが開く音が聞こえて人の気配が部屋の中から消えた。
俺はすぐ体を起こすと、左手にミコ入りのカプセルを呼び出し、それを投げる。
俺のために使える魔法少女が姿を現した。
「呼び出してくださりありがとうございます、ご主人さま。どのようなご命令でも言ってくださいね」
嬉しそうに微笑みながらミコが言ってくる。
だが、笑顔の時間は終わりだ。
これから先は、非情で苦痛に満ちた現実と向き合うための時間である。
俺は自分腕に刺さっている点滴やらコード類やらを全て剥ぎ取りながらミコに命じる。
「手を貸してくれ」
俺がベッドを降りようとしていることが分かり、ミコの表情は急に曇る。
おそらく、カプセルの影響下で俺の完全支配を受けていなければ、絶対にこんな命令など聞くはずがない。
中身はどうあれ、俺は重症を負い死にかけたばかりの五歳児なのだ。
こんなむちゃを許せば、俺の命に影響する可能性すらある。
もちろん俺は、これから先生き延びるためにこうするわけだが、そんな事情ミコは知らない。
仮に知っていたとしても、それを許すことはないだろう。
内心そうとう苦悩した様子が俺の目からも伺えたが。
「分かりました、ご主人さま。でも、くれぐれも無茶なことはやめてください」
俺がベットから降りるのに手を貸しながらミコは言ってきた。
カプセルの影響は絶対的で、ミコには従うしかなかった。
だから、この辺りが精一杯の抵抗だということなのだろう。
痛み止めも投与されているはずだが、床に右足を下ろすと激痛が走る。
スライムから逃げ出すときはもっと痛かったはずなのだが、あの時は命の危機に直面していてそれどころではなかった。
だが、今はしばらくの間だけだが、ベッドの上で完全に気を抜いてしまっていた。
だから、よりいっそう痛みが増して感じられる。
だが、これから先、薬の効果が切れたら確実に痛みは増す。
このくらいで動けなくなるようでは、この先生き延びることはままならない。
せいぜい我慢していたつもりだが、それでも苦痛が表情に出てしまったのだろう。
「ご主人さま、本当に大丈夫ですか? お辛いですよね?」
おそらく俺を病院に担ぎ込んだ時、俺の足がどうなっているのかはっきり見ているはずなので、俺よりも危機感が強いのだろう。
ひどく心配しながら、俺の体を支えようとする。
「軽く手を貸してくれたらそれでいい。君には俺にできないことをしてもらわなくてはならない。それに、君が心配してくれた所で苦痛が和らぐわけでもなく、やらなくてはならないことが減るわけでもない。君にできることは、俺の命令に従うことだけだ」
俺ははっきりと伝えておく。
この世界もそうだし、俺が転生した世界もそうだ。
強い者が生き残り、弱い者が死んでいく。
左足を失ったがかろうじて生き延びることができたのは、有紗という強者がたまたま現れたからだ。
そして俺は二人の魔法少女という強者をゲットして、力を得ることができた。
だが、生きていくためには、それだけでは不十分だ。
やはり、俺自身にも最低限の強さが必要なのだ。
左足を失い右足にひどい負傷をおっている五歳児なりの。
「そこに吊るしてある袋を取ってくれ」
さっき看護師から教えてもらった点滴薬の袋を指し示しながら命じる。