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異世界に転生して虚弱体質の村人になった俺が、唯一頼ることができるのはカプセルでゲットした魔法少女だけだった。  作者: ぢたま
一章 虚弱体質村人幼児がスライムに出くわして死にかけた後、魔法少女をゲットする話
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一章 虚弱体質村人幼児がスライムに出くわして死にかけた後、魔法少女をゲットする話19 - カプセルの中と外

 一章 虚弱体質村人幼児がスライムに出くわして死にかけた後、魔法少女をゲットする話19 - カプセルの中と外


「絶対に嫌です。お願いします、冗談でもそんなことを仰らないでください。今のわたしは、ご主人さまにお使えし、ご命令を実行するためだけに存在しているのです。ご主人さまの欲望を満たすことが、わたしの欲望そのものなのです。だから、カプセルの中のわたしは、わたしではありません。でも、ご主人さまの所有するカプセルの中に閉じ込められているのだという事実があるから、かろうじてわたしは中のわたしを認めることができるのです」


 答えの内容自体はほぼ俺の想定していた通りであった。ただ俺の想定していたよりずっと、熱くミコは語っていた。

 カプセルによって書き換えられたミコの人格は、俺が思っているよりもずっと強く根を降ろしているようだ。

 それもこれも、記憶の断絶が起こっていないことが大きいだろう。

 そして、この影響というのは不可逆的なものであろうことは容易に想像がつく。

 つまり、俺が命令をしても元のミコに戻すことは不可能だということだ。

 もっとも、そんなことをするつもりはまったくないが。

 俺が元の世界で生き延びることができなくなる。


「それでは最後の質問だ。今からカプセルに戻すがどう思う?」


 戻すのは簡単だ。

 俺が左手を少し閉じるだけでいい。

 質問したのは、カプセルに戻った後のためだ。


「すべてはご主人さまの意のままに。でも、あえて言うなら、中の自分は嫌いです。だから、戻りたくはありません」


 ミコは躊躇なく、はっきりと答えていた。

 それを聞いた直後、俺は左手をカプセルの大きさくらいに閉じる。

 大きな音とともに、俺の手の中にカプセルが戻ってくる。

 もちろん中にはミコがいる。フルヌードの姿で。

 覗いてみると、両手で自分の体を隠し、俺のことを睨んでいる。

 どうにもならない自分に苛立っていると言っていたが、そのことを気にしてもしかたがない。

 それよりは確認だ。


「今でも、外に出たいと思うか?」


 記憶の断絶が起こっていないこの状況ならば、外に出るということがすなわち俺の欲望のためにだけ尽くす存在になるのだということを認識しているはずだ。

 その状態で、ミコが一体どういった反応を見せるのか。

 それが知りたかった。

 俺の想像では、二つに別れた人格はいずれかならずどちらか片方に収斂していく。

 記憶の断絶が起きていないこの状況でそうならなければ、精神が壊れてしまう。

 だから、中と外。一体どちらのミコに収斂されていくのか、それを確認しておきたかったのである。

 もっとも、カプセル内のミコが残ったとしても、それは以前のミコとはおそらくまったくの異なった人格へと変貌しているはずだ。

 まぁ、そうなるかどうかはこれからのミコの答えにかかっているのだが。

 そうしてミコは、俺の質問の答えを見つけるのを苦労しているようで、すぐには何できなかった。

 だが、そういった反応を含めて言った質問だ。

 カプセルの中でミコは頭を抱えて悩んでいる。

 俺はその様子をただ黙って観察していた。

 両手で自分を抱えるようにして、小さく震えている。

 おそらく、自分自身の記憶と闘っているのだろう。

 俺の欲望を叶えることだけに喜びを見出す自分。

 そして、今までの自分。

 どちらの自分の記憶も等しくある状態であるのだから、その整合性をとるのは容易なことでないだろう。

 だが、苦しそうな表情のままミコは俺の方に顔を向けて、ゆっくりと頷いた。

 外に出たいと。

 そう結論をだしたのである。

 それでもう十分であった。

 俺は、完全に左手を閉じる。

 時間切れだ。

 部屋の外が騒がしくなっている。

 魔法少女の作り出す、独特な結界により俺のいる病室は隔離されていた。

 ミコをカプセル内に閉じ込めた際に発した、二度の大きな異音。

 それを院内にいる人間が聞きつけていないはずがない。

 ましてや、俺は重症患者である。しかも、五歳児の。

 カプセルを回収して結界が解かれた今、看護師や医師がすぐに駆けつけてくる。

 だが、その前に俺にはやるべきことがあった。

 無くなってしまった左足はとりあえずいいとして、問題なのは右足だ。

 包帯で覆ってはいるが、皮膚を完全に失っていたのだ。

 このまま元の世界にもどって、何の治療も受けなければかなり高確率で感染症になるだろう。

 それは、五歳児でしかも病弱な俺にとって致命的である。

 だが、助かる方法は存在する。

 この世界からできるかぎり大量の消毒薬と抗生物質を持ち込む。

 魔法による治療というものもあるらしいが、魔法が抗生物質の代わりをできるとはどうしても思えない。

 俺が聞いた話では、怪我を直したという話は聞くが、病気が直ったという話を聞いたことがないからだ。

 治癒魔法を使える魔道士を探し出し治療をするにしても、それまでの間感染症から自分の身を守る必要があった。

 感染症になったとしたら、治癒魔法で右足が回復したとしても生き抜くことは困難だろう。


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