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語り部奇譚  作者: 缶詰
15/15

完結

 あれから、三週間が経過した。もう五月も終わりに近づき、梅雨の季節がやってくる。さて、まずは何から話そうか。

 取りあえず、彩さんから。彼女はあの事件の後、ある日を境に嘘のようにみるみる回復していった。まだ髪に白髪は目立つが、可愛らしいソバカスが見えて来たのでもう問題はないだろう。彼女の親にはかなりの金額を貰った。

 次に、青桐グループと宗教団体日它教。もちろん青桐グループは解体。日它教によって生み出された悲劇の物語として世間に広まった。青桐冬弥の死を知った時、彩さんはどこかで分かっていたと言うように、首を振った。

 最後に、個人的に一番驚いた事。下のカフェ『突撃』のマスターくま男こと久木田信重(くきだのぶしげ)さんは日本で言う秘密警察の様なお仕事をしているらしく、今回のように怪奇の起こした事件の収拾をしている人らしい。知った時にはヤクザだと思っていてすみませんと頭を下げた。快く許してくれた彼はやはり森のくまさんが良く似合う。

 今日はそんな久木田さんに手伝ってもらい、ささやかな彩さんの退院祝いを開く事になった。カフェには初めて入ったが中々にミリタリーチックでかっこいいと思う。アサルトライフルにリボンでデコレーションなんて初めて見た。

 そうこうしているうちに約束の時間になる。カランカランと軽やかな鈴の音(元は店内になぜか仕掛けてあったナリコ)が響き渡った。そして

「彩さん退院おめでとう!!」

 クラッカーと晴れやかな声が響く。大体いるのは自分とヴァレンと強面お兄さんだが。その音と声にびっくりして固まっているが、すぐに復活し、ありがとうございます!と涙ぐみながらお辞儀をした。

 ケーキやお兄さん達の宴会芸(ソフト)で盛り上がる。昼間から飲む酒ほど最高な物は無いだろうと勢いよく煽った。

「あら?困りましたわ?もうワイン切れちゃいましたの?」

 厨房で酒の調達をしていたヴァレンの声が聞こえる。この時の自分はほろ酔いで、少々判断能力が鈍っていた。

「俺のワインでしたら丸丸一本残ってますぜェ!」

「あらーありがとう。……スパークリングかしら?白ワインのスパークリングなんてなんてお洒落なのかしら素敵!」

 こちらもかなりお酒がまわっている。全員のワイングラスにこれでようやく飲みモノが行きわたった。

「はぁい!ではそろそろしめに乾杯したいと思いまァす!」

 声高らかに宣言すれば一人一人にワインを届ける。自分は赤ワインを選んだ。

「それでは、彩さんの回復を、カンパーイ!」

「乾杯!」

 天に掲げて一口飲む。美味しい赤ワインだとホクホク顔になるが一部の者が固まった。

 その手には白ワインが握られている。

「……秀、一つ聞きますわ。貴方このワイン、どこで手に入れましたかわかるかしら?」

「ええ~やですねィ、普通に市販ですよゥ」

「あら~最近は無臭ですけどラズベリーのいいお味がするワインが売ってらっしゃるのねぇ?」

「そうそう!ラズベリーの……はぃ?」

 慌ててそちらを見ればもう遅い。数名臨戦態勢になり彩さんはフルフル怯えた瞳を向ける。マズイしくじった。

「秀ェ?どう言う事か説明できるわよねぇ!!」

「おぇっぷ説明じまずがらゆらざないでぐだざ」

 ポロリと胸元から一冊の本が出る。その本を見て全員が完全に臨戦状態に移った。がっちり久木田さんに拘束される。

 ヴァレンがその本を持ち上げ、表紙を見て目を丸くする。そしてフルフルと小刻みに震えだす。いったいどうしたのか、と心配になり声をかけようとすればキッと睨まれ次の瞬間

「私の求めていた本あったじゃないのよーーーー!」

「角はお止めくだ、っあーーーーー!」

 顔面に思いっきりいい角度で決まる。この後、暴れるヴァレンに自分への取り調べでもうパーティーどころではなくなった。

「で、あのワインはどうやって作ったのかな?」

「本に覚えてる味になるお呪いってのがあったんでお試ししやした。反省はしてますが公開も後悔もしておりやせん!」


 語り部後日談……おわり

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