完結
あれから、三週間が経過した。もう五月も終わりに近づき、梅雨の季節がやってくる。さて、まずは何から話そうか。
取りあえず、彩さんから。彼女はあの事件の後、ある日を境に嘘のようにみるみる回復していった。まだ髪に白髪は目立つが、可愛らしいソバカスが見えて来たのでもう問題はないだろう。彼女の親にはかなりの金額を貰った。
次に、青桐グループと宗教団体日它教。もちろん青桐グループは解体。日它教によって生み出された悲劇の物語として世間に広まった。青桐冬弥の死を知った時、彩さんはどこかで分かっていたと言うように、首を振った。
最後に、個人的に一番驚いた事。下のカフェ『突撃』のマスターくま男こと久木田信重さんは日本で言う秘密警察の様なお仕事をしているらしく、今回のように怪奇の起こした事件の収拾をしている人らしい。知った時にはヤクザだと思っていてすみませんと頭を下げた。快く許してくれた彼はやはり森のくまさんが良く似合う。
今日はそんな久木田さんに手伝ってもらい、ささやかな彩さんの退院祝いを開く事になった。カフェには初めて入ったが中々にミリタリーチックでかっこいいと思う。アサルトライフルにリボンでデコレーションなんて初めて見た。
そうこうしているうちに約束の時間になる。カランカランと軽やかな鈴の音(元は店内になぜか仕掛けてあったナリコ)が響き渡った。そして
「彩さん退院おめでとう!!」
クラッカーと晴れやかな声が響く。大体いるのは自分とヴァレンと強面お兄さんだが。その音と声にびっくりして固まっているが、すぐに復活し、ありがとうございます!と涙ぐみながらお辞儀をした。
ケーキやお兄さん達の宴会芸で盛り上がる。昼間から飲む酒ほど最高な物は無いだろうと勢いよく煽った。
「あら?困りましたわ?もうワイン切れちゃいましたの?」
厨房で酒の調達をしていたヴァレンの声が聞こえる。この時の自分はほろ酔いで、少々判断能力が鈍っていた。
「俺のワインでしたら丸丸一本残ってますぜェ!」
「あらーありがとう。……スパークリングかしら?白ワインのスパークリングなんてなんてお洒落なのかしら素敵!」
こちらもかなりお酒がまわっている。全員のワイングラスにこれでようやく飲みモノが行きわたった。
「はぁい!ではそろそろしめに乾杯したいと思いまァす!」
声高らかに宣言すれば一人一人にワインを届ける。自分は赤ワインを選んだ。
「それでは、彩さんの回復を、カンパーイ!」
「乾杯!」
天に掲げて一口飲む。美味しい赤ワインだとホクホク顔になるが一部の者が固まった。
その手には白ワインが握られている。
「……秀、一つ聞きますわ。貴方このワイン、どこで手に入れましたかわかるかしら?」
「ええ~やですねィ、普通に市販ですよゥ」
「あら~最近は無臭ですけどラズベリーのいいお味がするワインが売ってらっしゃるのねぇ?」
「そうそう!ラズベリーの……はぃ?」
慌ててそちらを見ればもう遅い。数名臨戦態勢になり彩さんはフルフル怯えた瞳を向ける。マズイしくじった。
「秀ェ?どう言う事か説明できるわよねぇ!!」
「おぇっぷ説明じまずがらゆらざないでぐだざ」
ポロリと胸元から一冊の本が出る。その本を見て全員が完全に臨戦状態に移った。がっちり久木田さんに拘束される。
ヴァレンがその本を持ち上げ、表紙を見て目を丸くする。そしてフルフルと小刻みに震えだす。いったいどうしたのか、と心配になり声をかけようとすればキッと睨まれ次の瞬間
「私の求めていた本あったじゃないのよーーーー!」
「角はお止めくだ、っあーーーーー!」
顔面に思いっきりいい角度で決まる。この後、暴れるヴァレンに自分への取り調べでもうパーティーどころではなくなった。
「で、あのワインはどうやって作ったのかな?」
「本に覚えてる味になるお呪いってのがあったんでお試ししやした。反省はしてますが公開も後悔もしておりやせん!」
語り部後日談……おわり




