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語り部奇譚  作者: 缶詰
12/15

戦闘

 長い長い一本道をひたすら進む。潮の匂いも濃くなって、赤黒い川の流れも速くなっているように見える。そうした先に、淡い明かりが見えた。

「……これはこれは、ヴァレンティーナ嬢。あまりの好奇心はその身を滅ぼしますよ。全く、女性はお淑やかな方が嫁の貰い手があるの言うものですのに」

 いつも通りの挨拶をする青桐冬弥。軽口まで出してくる彼のあまりにも普通の態度が、異質さを増している。そして、彼の傍らには白いあの爺と、三人の手下。

 二対五か、分が悪いと思考を巡らせていれば青桐はふっと視線を逸らした。

「それでは教祖様、私はオオシロ様を起こしてきましょう」

「ああ、ここは任せなさい」

 骨壷のような壺を持ち、奥へ去っていこうとする。追いかけようにも目の前の四人が邪魔だ。三人の手下は槍のようなモノを握りしめて戦う気満々である。どうしようかと胸ポケットを上から触る。固く冷たい感触に指先の熱を奪われていく。

「ふ、ふふ、おほほほほほほほ!」

 突然、気でも触れたかのようにヴァレンが高笑いをした。いきなりの事に自分含め相手側も一瞬呆けた。しかし立ち直りが早いのかヴァレン目がけて一人の男が槍を向けて来た。まだ高笑いしているヴァレンは気づいていない。慌てて手を伸ばせば、彼女は一歩踏み出した。

 ガンッと固い物のぶつかり合う音が地下に響く。銃の側面で槍の軌道を逸らした。そのまま槍をつかみ自身の方向へ引っ張る。相手は体制を崩してヴァレンに倒れ込むようにして覆いかぶさる。そのまま

「ッグアァッ!?」

「あらら、御免あそばせ?その肩じゃレディを支える事もままなりませんわね?御可哀想に」

 肩の関節に向かって発砲した。砕かれた骨と血肉が咲き乱れる。あまりの痛さに男は気を失ったのかピクリとも動かない。

「女性の方が痛みに強いといいますものね。それと、大・き・な・お・世・話、と言う言葉を知らないのかしら?」

 クルリクリリと手の中で凶器を弄ぶ。ゆっくりと足を踏み出す彼女の気迫に押されて、ジリジリと後退する。自分もちょっと距離を取った。

「私、本気になればその辺の顔も金も地位も世間の評判もいい男とっ捕まえて籍入れる事なんて片手でできますのよォ!!」

 太ももホルダーから三丁目の拳銃を取り出し発砲する。怒りにまかせたその軌道はハチャメチャだが、牽制、威嚇の役割を果たしているのだろう、爺は腰を抜かしている。しかし、そんなに発砲しては銃弾は尽きるもの。特に当らず、弾切れになった。そこを逃してくれる程相手は優しくない。一人が向かい、慌てて後ろにもう一人が続く。

「あら、情熱的」

 片手でマガジンを床に落とす。もう片方はクルリと回してスライドの方を握りしめた。

 横腹すれすれに槍を避け、懐に入り込む。勢いそのままに大きく片手を振り上げ、そのまま振りおろせば鈍い音が鳴った。

「ッチ、浅いですわね」

 懐内に居るのでうまい具合に逃げられそうもない。矛先はヴァレンを狙って、追撃が来る。……が

「俺を忘れてんじゃねェんですかい!っと!」

 足元に一発叩きこめば怯んで矛先が止まる。その間にヴァレンはリロードを終えた。一番近い信者に金的をしていたのは見ない事にしよう。

「エスコートはもういいわ!先に奥の方に行って頂戴!」

 元気に発砲しながら叫ぶ嬉しい命令に、すぐに駆け出す。腰抜かした爺に邪魔されそうになったが蹴り飛ばして青桐の向かった先に向かう。足音が異様に耳に響いた。

 ネズミ一匹いない暗い道。奥の道は階段や長い通路で今自分がどこに居るのか分からなくなってくる。唯一変わらずにある血の川が道しるべになった。女帝の雄叫びも等の昔に聞こえなくなっている。いつ、何処で何が起こるか分からずに気を張り続けるのはとても精神的に疲れる。暗く、湿った空気が余計に不安を煽った。一人分の足音がこれほど頼りないのは初めて知った。自然と歩幅がせまくなるのを無理やり直す。

 同じ事を何度も繰り返せばゴールも見えてくる。いままで闇に居た瞳は突然の光に驚いて、視力を一瞬奪い去って行く。何度か瞬きをすればそこにあるモノの形がはっきり見えてきた。

 まるでプールサイドのように正方形の血の池。此処からでは見えないがきっと化け物が眠っているのだろう。正面に祭壇があり、そこに男はいた。

「こんばんは、青桐さん」

「……こんばんは」

 自分が来た事が意外であったのか、一つ、瞬きをした彼はジッとこちらを見据える。手元には、あの骨壷の様なものがあった。

 ここは海の水も入っているのか、換気のおかげで回る空気は鉄の匂いより潮の香りを運んでくれる。そこは安心した。

「全く、そんな危ないモンどうするんです?ま、人間操る力あるんでそれ利用して金をガッポガッポなんて低俗的な理想持ってる事は調べがついてんですけど」

 茶化すようにそう言えば、相手は肩を竦める。

「何を言うんだい。金を稼ぐ事のどこが低俗的だって?金を稼ぐのは当たり前のことだろう?それとも、正義の味方らしく金より大切なものがある……とでもいいたげだね?」

「え?金より大事なモノあるんです?」

 驚いて見せれば相手も驚いたようにこちらを見る。金を稼ぐという事は大切だし、今の世の中金がないと何もできない。それはよくわかってる。ならばなぜ?と言いたげに見て来るので吹き出しそうになった。

「世の中金と言っても断言してもいいでしょ?でもねぇ、流石に人の命弄ぶことは感心しねェんですわ。うちの女帝がここにたどり着くまでの時間稼ぎに付き合ってもらうぜェ!」

 銃口をしっかり青桐に向ける。これで幸せは人の不幸の上に成り立っているなんて言われたら笑うしかないだろう。青桐は自称気味に笑うと、背広を脱ぎ棄てる。

「素人の拳銃なんてあたる事もない、慣れない武器は身を滅ぼすだろう」

 身の上話もなしに突っ込んでくる。迷いなく引き金を引けば耳を掠めて肩に命中した。しかし止まることなく掴みかかってくる。これは柔道か空手かは知らないが掴まれたらまずいので身をひねって回避する。よろけながら距離を取れば、相手は難なく体制を整えた。肩に命中したと思ったが痛そうにはしていない。化け物かと悪態をつけば足を狙って引き金を引く。しかし、対象が動くせいで上手く当らない。じわじわ距離を詰められる。もう腹にでも当てて動きを止めようと少し上に狙いを変えれば、しっかり襟をつかまれる。しまったと思った時にはもう身体は宙に浮いていた。

 背中から叩きつけられ、肺から空気が一気に抜ける。しかしここで痛みに耐えていてはダメだと歯を食いしばり、こちらも背広を捨てて、相手から逃げる。なんとか銃は手放さずに済んだが替えの弾は背広のポケットにおいてしまったため、残りの弾は3発のみ。

 二人の位置が入れ替わった。しかし現状不利なのは自分だろう。緊張のせいで嫌な汗が手のひらに滲む。

 先に動いたのは青桐だった。素早く距離を詰められ、殴りかかってくる。腕でガードするが殴られた箇所がジンジンと痛み響く。二発目を当てられたら手から拳銃が離れた。

「しまっ!?」

「よそ見をしていていいのかな!?」

 宙を舞う拳銃に気を取られ視線がそれる。その隙にもう一度投げられた。背中が軋んだ音を立てる。流石に二回投げられるのはキツく、逃げる事が遅れた。上に乗られ、全体重で拘束してくる。逃げようと悶えようがビクともしない。その手は首にそえられ、だんだんと締まっていく。

「ッ……!ッカ!」

「苦しいか?苦しいだろう。立てつかねばもっと長生きできたのになぁ」

 もがけばもがくほど苦しくなる。意識が飛ぶか飛ばないかのはざまで調整してくるのでとても腹だ出しい。きっとトばすのが上手い人だ。苦しさに喘いでも空気は入ってこない。

「私は約束したんだ、彼女に恥ずかしくない男になるって、約束したんだ。その約束を叶えねばならないんだ、例え彼女が忘れていても!私は!私は!」

 力を込めながら、誰に聞かせるわけでもなく、いや、もしかしたら自分に言い聞かせているのかもしれない、小さく、噛みしめるように呟く。彼女とは誰なのだろう。酸素の足りない頭はぼんやりとそんな事を考えていた。

 いや、心当たりはある。……一人、仲の良かったと聞いた女性の事だが。

「……や、さ……は」

 もし、もし自分の考えが当っていたら

「く、さ……べ、……は」

 なんて滑稽だろう。

「くさ、かべ……さや……さ、は」

 ありえないだろう。だって、オオシロの器に選ばれたんだ。知らないはずはない。

「器に選ばれたよ」

 やけにはっきりと声が出たのは、名前をだした時、すでに首にかけた力が抜けていたからだろう。分かりやすい奴だ。

 優勢になって余裕に満ちていたその表情は、一つの言葉で全ての感情と共に流れ落ちていく。見開かれる瞳はだんだんとその焦点を失い、光が消えた。

「う、嘘だ、彩は、ショックで、治療していると、薬の作用、が少し強く、出ただけだと、アイツは言って、彩に、もう手は、だ、ださないと、に、贄は別に作ったと、巫女は、身内の者で適応者が出たと、言って、わた、私は、それを、し、信じて、あ、ああ、ああああああああ!」

 なんだ、聞かされてなかったのか。助かったと上半身を上げれば、鼓膜をつん裂く炸裂音、頭のすぐ上をチリっと何かが掠る。それと同時に、生ぬるい液体が顔に降りかかる。鼻が馬鹿になっても分かる、よく嗅いだ臭いだ。上を向けば驚愕の表情を浮かべた青桐が見える。その口からは、まだ、酸化していない赤い血液がとめどなく溢れている。白いワイシャツの胸元はじわりじわりと赤く色付いてくる。撃たれた、誰だ、誰に撃たれた。ヴァレンが来たのかと入口を見れば教祖と呼ばれた爺が息を切らして立っていた。その手には自分が手放した拳銃が握られている。

「お、前……な、ぜ……」

 口を開けば溢れる血液が降りかかる。その量に素人目からみても助からないのは分かった。グラリと上に降ってくる前に、横に退ける。絶望の顔で固まった表情は、醜くい。

 撃った本人は汚い笑みを浮かべて近づいてくる。興奮で瞳孔が開ききっている。これは危ない、こういう奴は本当に危ない奴だ。刺激をしない様にゆっくり立ち上がる。ジリジリとよってくるので後退するしかない。あの銃に残った弾丸は一発。

「ひ、ひひひ、じゃ、邪魔しやがって、顔がいいからって、調子にのって、お、俺の、事、馬鹿にしやがって!ぜ、全員俺に、跪けよォ!オオシロも、服従できるんだ!俺は、俺はァァ!」

 喚きながら銃を構える。不味い、と思った時には引き金が引かれていた。

 銃声、衝撃。撃たれたと理解したのは焼けるような熱が腹から全身に回ってからだった。思わず前かがみになる。霞む視界に映る爺の後ろに、縄を持ったヴァレンが到着したのが見える。なら、もう安心だ。爺がもう弾が出ないと分かると殴りかかってこようとする。止めようと向かってきてくれるが、きっと間に合わないだろう。自力でよけようと両足に力を込める。なんとか避けられたが、体中が痛く、足元がおぼつかない。続いてまた銃で頭を殴られた。今度は避けられずにモロに食らった。

 ヴァレンが追いついて爺を拘束するのが見えて、身体が傾く。

 地面が目線の上にあるのはなぜだろうか。それは

「古本ぉ!」

 ボチャンっと視界が赤く染まって鉄の味が口に広がった。ドンドン沈む身体は力が全く入らない。

 息もできなく、ぼんやりと暗くなっていく視界に映ったのは、金の満月だった。

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