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英雄と国家の成長  作者: 深川 七草
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第一章 富国強兵

 俺は、列を組んだ兵を従えて城門を潜ると城下町に出る。

 出陣だ。

 騎兵は百二十、歩兵は三百八十で兵士は五百人しかいないのだが、そこら辺の街を落とすには十分だ。

 とはいっても、隊列は短くない。さらに二百人、後に続くからだ。

 こいつらは基本的に戦わない。何故なら輸送部隊であり、人を殺すどころか戦闘経験のない者も含まれるぐらいなので、そもそも戦えと言っても無理だからだ。

 これだけの輸送隊がいるなら剣や槍を持っている兵士たちに楽をさせてやりたいところだが、遠征先は伸びていきむしろ荷物は増えるばかりである。

 それは勝利続きによって広がり続ける我が国にとって、攻めるべきそこら辺の街が遠くなっていたからだ。


「隊長! 見てくださいよ」

 調子のよい部下が、道の端に避けて兵の列をやり過ごす女を指差す。

「隊長の事、気がついたみたいですぜ。そりゃ、鎧に隠れているとはいえ鍛えられたガッシリした体は想像つくでしょうし、その割に顔がシュッとしてますからね隊長は。もてますわな」

 俺のことをおだてている。

 怖い顔つきにめずらしい黒髪のため呪われているだとか、話せば真面目なことばかり言って付き合いが悪いなんてことも、まあ部下が話しているのは知っている。

 その方がいい。

 こんなおだてに合わせていたら、なめられて戦地での統率がとれない。

 だが俺の事を、うらやましいと言っている連中もいるらしい。高い能力と認めてくれているのだろうか? それとも、運だけで伸し上がったかのように思えるからだろうか? 

 後者だとしも否定はできない。人一倍、努力しているかどうかなど図る由もないからだ。


 街の外れになれば沿道に人を見ることはほぼなく、たまにすれ違うのは許可を与えられた行商ぐらいだ。

 行商と言っても、昔のように魚籠を背負って歩くような者のことではない。馬車で大量に何でも扱う連中のことだ。資源管理や往来の安全を担保するものだなどと言っているが、既得権益者の巣窟である。

 それでも、王が演説している光景を思い浮かべれば、街に住む人々には美しい話と映るのであろう。

 王は演説が好きなようで、大臣の任命など式典で使う広場にあるテラスまで出向くと、国民に向って直接演説をすることがある。これだけの規模がある国で、他にそんなことをやっている王はいないだろう。

 そしてそこではこんなことを話していた。

『強き者しか生き残れない』

 蹂躙されない国であるために、強くなければならないと。

『与えられた大地と限られた資源』

 神がいるとかいないとかは人によって、内心思っていることは違うだろう。だが王はそんなことではなく、大地や資源を生かさねばならないと言いたいのであろう。俺はそう受け取った。


 だから、いつ始まったか忘れてしまった繰り返し続く戦いに、今も向っているわけだ。

 北へ北へ。今回は北伐だった。

 進めば寒さが増してくる。

 夜になりテントを張れば、質の悪い泥炭で暖をとる。ちらちら燃えていて、物足りないがテントも炭も運んでくれる部隊がいるだけマシである。


 日が昇ると、いよいよ開戦だ。

 誰もが、戦闘なんてやりたくない、死にたくないと、心底にあったと思う。

 しかし口の悪い兵士はこの有様だ。

「負けるわけねえだろう。移動の方が大変だっていうんだよな」

「殺した数が少ない奴のおごりな」

 こうでも言ってなければ、やってられないからだ。

 実際、戦いなれていた俺たちは勝った。圧倒的な、簡単な、そんな勝利と伝えられるだろう。

 俺は部隊を率いる者として、馬上で剣を掲げポーズを決める。

 草原の覇者、旗を翻す。

 こんなタイトルが付くだろう安っぽい演技だが、鼻を突く臭いが漂うここは芝居小屋ではなかった。

 それでも強い勇者としていることで、国の誇りが守られるのだ。


 すでに守る兵がいない街に進軍すれば、隠れ離れて住民はこちらを伺っている。危険と思いつつも、来たやつらがどんな連中か気にはなるからだ。

 そんな中、目をそらす大人たちの間から見える少年は、俺の顔を真っ直ぐ見ている。恨みの一意をその眼差しにこめていたに違いない。死と対面した連中の目を見てきた俺には届かない無意味な行いだと彼は知らないのであろう。


 母国から街を管理する役人たちが到着すれば交代ということで、少しの防衛隊を残し帰還の途に就く。

 帰り道では、自覚はないが往きと違いホッとしたのだろう。目に入る麦畑に豊かさを感じる。

 ここで王が言っていたもうひとつの話を思い出した。

『増えた民を救うために』

 この号令のもと、進められたのは田畑の開発だけではない。

 もうすぐ見えてくる破格の風車もそうだ。

 その大きな胴体で受けた力で中の歯車を動かし、自らの支えにもなっている塔に水を汲み上げている。そしてその水は塔と接して並ぶ工場へと、枝分かれした水路を利用して送られている。

 工場から上がる水蒸気で包まれた塔自体が、まるで雲を作っている工場のようだ。

 新たな農地も、工業に必要な石炭も、他を倒して手に入れたものだ。それでも生き残るための戦いであり、犠牲を相殺しても得るものがあったはずだから正義であると言えた。


 入城である。

 慣れっこになってしまった段取りに、誰も祝ってはくれないが報告は必要だからだ。

 いや、訂正しなければならない。親衛隊長が出迎えてくれる。

 いつもピカピカの鎧を着て、その光り具合は手入れが行き届いているというより使っていない新品に見える。

 なので過去に聞いたことがあるのだ。

「見事に管理が行き届いておりますな。まるで新品に見えます」

「そうか? 新品だからな。ガッハッハ」

 中年太りのせいか髭のある顔まで丸く見える。

 親衛隊長は気さくで、その後も立ちっぱなしでも勤まるように強度を無視して軽く作られていることや、訓練では鎧を着ないので痛まないなどと平気で話してくれた。

 これを聞いて俺は、自分の着ている重く、緑色の錆が出てきている鎧との違いに腹が立ったこともあった。だがこうやって、城に戻った時に声をかけ労ってくれるのは彼ぐらいなものだから許せてしまった。

 報告の方も、親衛隊長に突かれたようで宰相の対応が早く、すぐに仕事を終えて帰ることができたのであった。

 独り身の俺には関係なくてとも、部下はそうでもないので助かるのである。

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