第2話 ノートリアス城下町
明るい光に照らされ目が覚める。
草むらに大の字で寝ていたのでその場でむくりと起き上がり辺りを見回す。
草は腰の辺りまで生えていて見通しが悪かった。
どうやら今いる場所は広い草原ようだ。遠くの方には町があるのか城壁らしきものが見える。
はぁ、とため息を吐き最初に思ったのは本当に異世界に来てしまったのか、という事だ。
正直、夢であって欲しいと思っていた。勿論、面白そうとは思ったが命が関わってくるのは怖い。
それに極めつけはスキルだ。俺は多少弱くても安定性のあるスキルが欲しかった。
なのに貰ったのはランダムスキルだ。想像してみて欲しい。
互いにあと一撃でやられる状況なんてきた時に運まかせなんて最悪過ぎるだろ。
そんな瞬間にゴミ武器なんて出たらもう終わりだな。
そんな事を考えながらゆっくりと城壁の方へと足を進めた。
歩いて数十分くらいした時だった。少し先の草むらから何やらガサガサと音が聞こえる。
風か?とも思ったが常に音がしているからそれはなかった。
すると草むらの間から姿が見える。そこには全身真っ黒の狼がいた。
思わずあっ、と驚き声を出したのが間違いだった。
狼がこちらを向き、一瞬の間のあとこちらに飛びかかってきた。
「うぉっ!」
とっさに横に飛び、狼の噛みつきを避ける。
やばいな、今の俺には武器すらないし、スキルを使うしかないのか。
まだこのスキルには不安要素が多くて使いたくなかったのだが、そんなこと言ってる場会じゃないと狼に向かって手のひらをむけ唱える。
「ランダムスキル 攻撃!」
唱えた瞬間、体から何かが抜けていく感覚があった。
これが神が言っていた魔力の消費なのだろう。だか今はそんな事はどうでもいい。
スキルが発動した時手元が眩い光に包まれ、手には一本の槍が握られていた。
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・訓練兵の槍
・訓練兵が使う槍。致命傷を与えないため、穂先は丸く潰してある。
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「ふざけんなっ!」
怒りに身を任せ槍を思いっきり横に振る。これで狼が後ろに飛び退いたのは良かったが内心これは無いと思った。
いくらなんでもランダム過ぎる! なんで戦闘中に穂先の潰した槍なんか出るんだよ! あの神、頭おかしいだろ! もう一回だ!
「ランダムスキル 攻撃!」
唱えるが何も起きなかった。
すると頭に何か情報が流れてきた。
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ランダムスキルは同じタイプは連続して使えないよ。クールタイムは三分ってとこかな。言い忘れてたね、ごめんごめん笑
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「あんのバカ神! ふっざけんなぁああっ!」
クールタイム? 何やたら重大な事伝え忘れてんの!? それになんだごめん笑って? こんなやつが神とか最悪だな!
そういえば気づくと狼がいない。どうやら槍をぶん回しながら大声で叫んでいたので逃げたっぽい。
ラッキーと言えばラッキーなんだが、イライラしてたのであまり良く思えなかった。
しばらくしてようやく城壁近くまで来た。
城壁は高く、ざっと二十メートルといったところか。
門の側には鎧に身を包んだ人が二人いるだけで特に変わった所は見られなかった。
ちなみに槍は三分経ったら消滅した。あれ以降動物?には襲われなかったのは幸いだな。
「ちょっと待て、身分を証明出来る物の提示を求む」
何気ない顔して素通りしようとしたら止められた。くそっ、まずいな。身分を証明出来る物なんて持ってねぇよ。
「なんだ? 見せれない訳でもあるのか?」
「あ、あぁ……、ここに来る途中でどうやら無くしてしまったらしく。今は手元に無いんだ」
とっさに嘘をついたがどうだ? これで何事もなければいいが……
「はぁ、無いなら銀貨三枚払ってくれ」
なんか面倒そうに言われたが銀貨三枚払えば通れるらしい。
俺が言うのもなんだが不用心な気もする。
幸い、アイテムボックスの中に金銀銅の硬貨が幾らか入っていたのでそれを払う。
「すまない。面倒かけたな」
「ああ、気にしなくていいよ。ちょっと書く書類が増えるだけだ。名前を聞いてもいいかな?」
「名前は夜斗だ」
きっと俺の名前なのだろうか手元の紙にすらすらと何かを書き込んでいた。
「よし。ヤトさん、ね。ようこそ。ノートリアス国へ」
案内され城門をくぐる。
目の前には活気に満ちた街が広がり、中央には一際目立つ真っ白な城があった。
ノートリアス国ね。世界の名前がつくだけあって国はでかいな。
しばらくの間拠点はここになるだろう。まずは宿を探すのが優先かなと、街の中を歩いていった。
ここは中央の城に向かって大きな道が何本もある円形の国のようだ。
初めて来た人などには迷う人が多いらしく地図が売っていたので買ってみるとこれが案外見やすい。
この地図に宿の場所ものっていたで探す手間が省けたのは良かった。
地図を見ればどこに宿があるかはすぐわかるのだが、色々と露天があったり面白そうなお店があったので寄り道していたらつい時間が経ってしまった。
目的の宿に来ることが出来たのは、この街に入って三、四時間経った頃だった。
目の前の宿は、明るめの白色で塗られた外見とは裏腹に、中はロウソクがぼんやりと光を放つとても落ち着く空間だった。
「やあ、泊まりの客かい? 泊まるなら一泊銅貨七枚で、朝晩の飯付きなら銀貨一枚だよ」
カウンターにいたおばちゃんが声をかけてくる。
正直この値段が高いか安いか分からないが、良い宿っぽいことは分かる。
「三日泊まるよ。飯付きで頼む。あっ今日の晩飯はなしで」
「あいよ。部屋は二階の十三番の部屋を使っておくれ」
言われた通り二階に上がり部屋に着く。中はそこそこの広さがあり、ベッドとタンスが置いてあるだけだった。
「はぁ〜〜、本当今日は疲れたなぁ」
外を見ると空が夕焼け色に染まってきていた。ベッドに仰向けに寝転がり一日を振り返っていた。
スキルやこの国、街の雰囲気などを色々考えてる内に、夜斗はそのまま眠ってしまった。