誘い上手な蔵書たち
爽やかな午後。長かった酷暑もようやく一段落し、空が高く、秋風が肌に心地よい。
秋は豊穣の季節だ。そんなある日曜の昼下がり。高く澄みきった空には、白いうろこ雲が浮かんでいる。葉っぱは色づき、または色あせて地面に降り積もる。裏庭から見える田んぼの稲穂が金色に輝き、植物たちがずっしりとした果実を生み出している。
そんな日に、私は家の書架の前にいた。父も母も。果ては兄姉も親類も大の読書好きで。それぞれの書架以外だけでなく、共同の書架があったりする。私も、ここから随分と多くの本を読んだ。姉のものと思わしき、一冊の本。タイトルに惹かれ、手にした。
『ぼくらの七日間戦争』 宗田理
夏休みに、世間の理不尽に立ち向かうために一致団結した生徒たち。規則や勉強を押し付けてくる学校教師や身勝手な大人に『戦争』を挑み、暴力ではなく知恵で対抗する少年達の行動や言動は。苦悩と、焦燥、それでいて、胸を打たれるくらいの純粋さを秘めている。
彼らは自分と同じ年頃でありながら、この違いは何なのだろう。改めて思いを馳せてみる。
軽く流し読みしてから、もう一度棚に戻す。今日の目的は違うので、日を改めて読もうと思ったからだ。
指を顎に当て、しばらく書架に並ぶ背表紙の文字に目を滑らせていた。
ある一角で、その視線が止まる。ゆっくりと確かめるように動く。そこに居並ぶ書物達。自分も家族も、基本的に何でも読むのでジャンルはまちまちだ。
古典文学・推理小説・青春小説・恋愛小説・SF小説・歴史小説・冒険小説・経済小説・ファンタジー小説・ゴシック小説などなど……。
正面から右の本棚には、
『羅生門』 芥川龍之介
『黒い家』 貴志祐介
『妖怪アパートの幽雅な日常』 香月日輪
『夜長姫と耳男』 坂口安吾
『梟の城』 司馬遼太郎
『すみだ川』 永井荷風
『吾輩は猫である』 夏目漱石
『たけくらべ』 樋口一葉
『グラツィオーソ』 山口なお美
『アルゼンチンババア』 よしもとばなな
などの近現代文学が収められているし、その反対側には、
『三毛猫ホームズの推理』 赤川次郎
『屋根裏の散歩者』 江戸川乱歩
『人形はなぜ殺される』 高木彬光
『魍魎の匣』 京極夏彦
『八つ墓村』 横溝正史
『ポケットにライ麦を』 アガサ・クリスティ
『バスカヴィル家の犬』 アーサー・コナン・ドイル
『ブラック・リスト』 サラ・パレツキー
『隅の老人の事件簿』 バロネス・オルツィ
『女には向かない職業』 P・D・ジェイムズ
和洋限らず推理小説群が所狭しと並んでいる。
一番左端の本棚には詩集やエッセイが陳列され、こちらもなかなか和洋折衷だ。
『私の前にある鍋とお釜と燃える火と』 石垣りん
『見えない配達夫』 茨木のり子
『智恵子抄』 高村光太郎
『春と修羅』 宮沢賢治
『みだれ髪』 与謝野晶子
『黒雲の下で卵をあたためる』 小池昌代
『こんなこと』 幸田文
『父の詫び状』 向田邦子
『半分のふるさと』 イ・サンクム
『生きていることを楽しんで』 ターシャ・テューダー
ざっと眺め回して。ふと気づくと、そのタイトルだけで本の世界に溺れそうになっている自分が居た。軽く頭をふり、改めて見つめる。
毎日、本の世界を時間をかけてゆっくりと冒険している。アタシが一冊を読破とするうちに、家族の誰かがまた一つ本を買ってしまう。そうやってまた一つ分、知らない蔵書が増えていくから、なかなか距離は縮まらない。。だから私はわくわくするような気持ちで本の世界に耽ることができるのだ。
その中から、今日は一冊をもう一度じっくり読もうと決めたのだ。やっぱりすぐには決められなくて彷徨う視線。
「ふむ」
小さくつぶやくと、一冊の背に指をかける。
「今日はこんな気分だ」
自分の手には、淡い色調の表紙絵が特徴のエッセイ。『自然体』という言葉が好きだといったある俳人。
幸せを求め、生きることの中に、人の世に旅している。
愛すると言う意味は、自分でもよく分からない。ただ、相手を大切に思えることが。相手のために何か自分が出来るのなら。それも愛ではないのかと……。
だったら。私はあいつらを、本当に愛しているのかもしれぬな。
本を手に、縁側に出る。表紙を開き、ページをめくる。
私にとって、秋は読書の季節である。
題名でピンときたら是非お友達になって頂きたいです。




