人の子桃太郎
こうしてモモタロウは桃太郎へと生まれ変わったのである。
しかし、桃太郎にはモモタロウであった頃の記憶がなかった。それは、神が万が一にもモモタロウが悪の心を取り戻して天界に復讐するような事があってはならないと記憶を消去したのである。
だから、桃太郎はもはや天使モモタロウではなく、完全に人の子桃太郎へと生まれ変わっていたのである。
さて、桃太郎をみた老夫婦はそれはもう驚いた驚いた。大きな桃らしきものを切り分けるとまばゆい光と共に中から人が出てくるのだから。
そして老父は桃太郎が日本刀の刃から逃れていることにも驚いた。
モモタロウもとい桃太郎をのせていたそれは単なる入れ物にすぎなかった。中では桃太郎の身体や力はエネルギーとして存在していた。しかし、それを切り分けたとき、その状態を保てなくなり、具現化したのである。
そして老夫婦は最初、桃太郎を捨て子か迷い子だと思った。しかし、桃太郎をよくみてそれは間違っていることに気がついた。
桃太郎はこの国の人々と同じく黒髪であったが、瞳は金色をしていた。それはこの国の人々とも、海の向こうから来る人々とも違っていた。
だから老夫婦は桃太郎を神の子だと思った。そしてそれはあながち間違いではなかった。なぜなら、桃太郎は元々、天界に住んでいたのだから。
そして老夫婦は桃太郎を自分たちの子として育てることにした。
神の子を捨てたり殺したりしてはばちがあたると思ったのもあったが、何より老夫婦には子供がいなかったのである。
こうして天使「モモタロウ」は老夫婦に引き取られ、人の子「桃太郎」となったのである。