第九話 王家の場合
予言の日が来るまで、あともう数日。僕はハーフリング独特の刺繍の入った正装に着替え、王宮に出向いていた。
「旧冒険者ギルドの代理人として、一週間前に国王陛下への謁見の許可を求めた小妖精のヒューレットです」
「謁見は今日の昼食後、半刻だけ許されている」兵士は機械的に答えた。
「でも、もう半刻が過ぎようとしています。このままでは――」
「控えよ。国王陛下の御機嫌が第一である」
僕は宮廷魔術師ハルマンのことを思い出していた。「我々はあくまで戦うべきだ」との主張には、確かに説得力がある。しかし、このままでは国王陛下が死んでしまうと考え、僕は気が気ではなかった。
「謁見が許可された。半半刻だけだぞ」
「はい!」
僕ははやる気持ちを押さえ込み、ゆっくりと赤い絨毯の上を歩いていく。
「旧冒険者ギルドの代理人、ヒューレット」
僕が片膝をつき、地面に目をやると、地面が明るくなった。天幕が開き、国王陛下が現れたのがわかった。
その傍らには、宮廷魔術師ハルマンがいる。
「ヒューレットよ。各ギルドへの根回し、ご苦労であった。だが、たとえ予言があろうとも、余はこの王都を離れるつもりはない」
「死ぬおつもりですか?」僕は見上げる。
「さよう。余は闇の勢力と戦って死ぬことになるであろう。しかし我が子は王位を継ぎ、リヨンから王都を奪回するに違いない。余は明日の朝、我が子に王位を譲るつもりだ」
絶句したのは宮廷魔術師ハルマンである。ハルマン自らが忠誠を誓ってきた国王陛下が、自らの王位を投げ出してまで囮になるというのでは、まったく話が違ってくる。
「余は、妻も子も、庶子も、若い家臣たちも、皆リヨンへと避難させ終えた。残っているのは年寄りばかりだ。王都にある者は、皆安心して戦い、誉れ高く死ぬであろう」
「国王陛下。そこまでの決意をなされているとは――」ハルマンが割って入った。
「黙れハルマン。『我々はあくまで戦うべきだ』と言ったのはお前ではないか」
「は、ははーっ!」
「小妖精のヒューレットよ。お前はこの世に唯一残った冒険者ギルドの生き残りだ。お前の父も祖父も、冒険者だった。お前こそが真の冒険者だ。未来永劫そのことを誇るがいい」
天幕は閉じた。謁見はあっという間に終わった。
僕は国王陛下の言葉の意味を考えていた。冒険者という名が、自分にふさわしいものなのか考えていた。来るべき時が来たら、僕も剣を持って戦うのだろうか。その手に握った剣で、竜の首を切り落とし、邪悪な魔王を打ち倒すのだろうか。
僕は両手を見つめ、手を握り、そして開いた。
旧冒険者ギルドは、きっとまた再起動する。再び冒険者ギルドとなって、煌くギルドカードを発行し、冒険者たちを輩出する組織になるのだ。ナルシアは賛成してくれるだろうか。この大事業を、僕は成し遂げられるだろうか。今の僕には、まだ分からない――




