第六話 魔術ギルド
カタルの塔と呼ばれる魔術ギルドが、このフラックランド王国王都にはある。文字通り高い塔が目印で、魔術の研究者(自称、真理の探求者)たちが大学を運営している。数学ギルドや、天文学ギルドも、この大学の構内に間借りする形で、居を構えている。
魔術ギルドは宗教ギルドとは犬猿の仲だが、僕ことヒューレットのような生まれつき魔法の素養がある種族、小妖精や、ナルシアのような大妖精にはおおむね寛容だ。そして当然のことながら、魔女シズネリを崇拝する一派も存在する。
「王都は滅ぶ!」
僕が知る限り、ここの白髪頭の学長は半分ボケている。老いてなお現役というのはいいことだが、彼のようになってしまうとむしろ老害である。
「でもどう滅ぶのかまでは予言されていません」と僕は反論した。ナルシアがその様子を見守る。
「王都は滅ぶ!」
ダメだ。何も聞こえていない。耳が遠くなっているのか、魔女シズネリの予言を絶対視しているのか。
別の部屋からやってきた魔術師が、僕に耳打ちする。ついていくと、別の部屋に学長以外の教師たちが集まって、対策会議を開いていた。僕は求められて発言した。
「十万の軍勢が来ます。竜が飛来します。魔王がやってきます。城が燃え落ち、城壁が崩れ落ちます。そこまではしょうがないでしょう。でも、それ以外は予言されていません。全員が蒸し焼きになる定めと決まったわけではありません」
議論となった点は魔女シズネリの予言がどこまで真実となるかという点だった。シズネリの予言は決して外れないことで知られる。だが、被害の全貌が明らかにされたわけではない。我々は「全滅する」と予言されたわけではないのだ。そこに対策を練る余地がある。
予言にあった王都ノルディーはあまりにも海岸に近いため、防御することはできない。我々は必要とされるもの全てを持って、王国の内陸にある都市リヨンにまで後退する必要がある。
一時は闇の勢力によって陥落する王都ノルディーだが、予言の時が過ぎれば我々はリヨンから反撃することができる。この大会戦をもって、闇の勢力を打ち破り、我々は王都に凱旋する。
地図を指し示しながら、僕は教師たちと計画を練った。しかし。
「本気で王都を捨てるつもりか? 馬鹿な!」
宮廷魔術師――魔術師の中でも、王宮で力を持つ――のハルマンは、この計画に難色を示した。
「では代案をお持ちですか?」僕は問い返す。
「我々はあくまで戦うべきだ。国王には私から直接そのことを言っておく」
そして旧冒険者ギルドの発行した金貨一万枚の小切手は、副学長の手に委ねられた。




