第四話 宗教ギルド
「帰りなさい小妖精。我々は魔女の予言など信じません」
ローブに身を包んだ僧侶たちは、王都の大聖堂からテコでも動こうとしなかった。
「そんなこと言っても、今までの実績から言って、魔女シズネリの予言は百発百中ですし」
「いと偉大なる神の前では、一人の魔女などちっぽけなものです」
まったく、この頭でっかちの連中ときたら! 僕は悩んだ。この堅物中の堅物、宗教ギルドを動かすにはどうしたらいいのだろう。僕はエルフのナルシアに相談した。その結果、もういっそ完全に騙すしかないのでは? という結論に至った。
「天使に会ったのです」
その言葉に、僧侶たちは少し動揺した。
「この長い歴史の中で、小妖精が天使に会ったことはありません。そもそもあなた達ハーフリングは、魔法を使う異端の者ではありませんか」
「でも会ったのです。きっと日ごろの行いがいいからでしょうね」
僕は釣り針を垂らした。
「仮にあなたが天使に会ったとして……天使はどんな姿でしたか?」
「質問してください。ゲームみたいに。イエスかノーで答えましょう」
「後光が差していましたか」
「イエス」
「翼は六枚でしたか」
「ノー。十二枚でした」
「剣を持っていましたか」
「イエス」
「天秤を持っていましたか」
「イエス」
「馬の蹄をしていまいしたか」
「ノー。翼に隠れて見えません」
「獅子を従えていましたか」
「イエス」
「その獅子は戦車を引いていましたか」
「イエス」
「ラッパの音は聞こえていましたか」
「イエス」
僕は全部適当に答えた。
「ああ、なんてことだ! それならその天使は聖コトリエル様だ! 裁きの日は近い!」
大聖堂は、僧侶と信者たちは、途端にざわめきに包まれた。
聖コトリエル様。それなら僕も聞き覚えがある。確か世界最期の日に現れるという天使の名だ。
「僕の記憶が確かならば、裁きの日の前に、戦の日が来るのではないですか? そのための準備をしなければ、裁いてもらう以前に地獄行きなのでは?」
「そうだ。この小妖精の言うとおりだ」
奥から現れてきた司教様――紺色のローブに白い教師の印が刺繍されている――が言った。
「戦の準備をせよ! 金銀財宝は無意味だ! 食料と武器を買い、七日七晩続く、悪魔どもとの徹底抗戦の準備をせよ! 戦の日が来る!」
僕は知っている。司教様が魔女シズネリに一目置いているということを。本当はシズネリが予言した当日にでも、戦争の準備をさせねばならないと思っていたであろうことを。
僕は背負っていたリュックサックを下ろし、取り出した小切手にペンを走らせる。
「旧冒険者ギルドが発行する、金貨一万枚の小切手です。この戦に勝利することを願っています。宗教ギルドに神の恵みがあらんことを」
司教はしゃがみ込み、せいいっぱい高く上げた僕の手から、うやうやしく小切手を受け取った。




