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第十八話 ゴーレムの使い方

 国王陛下はシルフに乗り、命からがら逃げ帰った。


 夜。松明を燃やし、武器を片手に、冒険者部隊と、残り半分の傭兵部隊がやってきていた。弓兵部隊と砲兵部隊は遅れ、付随していない。また魔術ギルドの多くが前線に出ているため、火の精霊(イフリート)による爆撃支援も受けられない。地平線には白い骸骨の影がうごめいている。


 僕はうなった。前回の敵兵力は約三万だったが、今回の敵兵力は約四万。思考をせずただ殴りかかってくるだけとはいえ、腰骨を砕くまで再生を続ける不死者の軍勢を相手にするには、今の部隊だけではまったく頼りなかった。


「まだ夜になったばかりだ。夜明けによる敵兵力の弱体化は期待できない。何か手は無いか……考えろヒューレット……考えろ、考えろ、考えろ」


「ヒューレット。すまない。私のせいで……」


「いや、ナルシアは悪くないよ。僕が魔王軍の計略に気付かなかったのが悪いんだ。ただ何か考えないと、戦争に負けちゃう……宗教ギルドはどうだろう? ターンアンデッドの呪文で骸骨は土に帰るだろうか?」


「宗教ギルドは先の王都防衛戦で、壊滅状態です」司教代理のヘンリーが答える。


「勝手かもしれないが、冒険者ギルドの再起動の件を、エルフとドワーフに伝えておいた。あるいは、彼らが助けにくるかもしれない」ナルシアが言う。


「それは心強い。それまで持ちこたえることができれば、こっちの勝ちだ」


 そこで僕は閃いた。


「海賊ギルドはいまごろどうしているだろう? 敵の船を蹴散らして、港に寄港しているんじゃないかな」

「連絡によれば、確かそのはずだ」

「じゃあ彼らに河を遡って援軍に来てもらおう。小船でなら、不可能じゃないはずだ」

「……分かった。私がシルフに乗って、援軍を乞いにいく」


 ナルシアと分かれるのは心細かったが、戦争に勝つためには援軍が必要だ。仕方が無い。


「残った魔術師の数はどのくらい?」僕は魔術ギルドの副ギルド長に問いかけた。


「約半数です」副ギルド長は答えた。主な戦力は前線に投入された。実際には、半分以下だろう。


「それでは、シルフで移動しつつ、巨大ゴーレムを沢山作って敵の足止めをお願いします。可能なら、設計に詳しい石工ギルドの方を同伴してください。ゴーレムを作ってできた穴を繋げて、河から水を引いて、堀を作ります」


「こんな時間帯に、まさか築城するつもりですか!?」


「はい。勝つためになら、援軍が来るまで耐えるためなら、夜間築城でも何でもやります」僕はきっぱりと言い切った。





 築城。それは本来であれば、昼にやる仕事である。城といっても、石造りのそれではない。土塁を積み上げ、堀を作り、水を引く。そんな単純なしろものだ。

 松明を持つ者が横に広く展開する。ぽつぽつと光る松明。その上空を、シルフを操る者、ゴーレムを作る者、石工の知識のある者から成るチームが飛行する。


 ボコボコッ! 土が盛り上がり、巨大なゴーレムになる。不死者が迫ってきていたが、ゴーレムたちは寝転がって壁となり、不死者の来る道を狭めた。隙間から、ぽろぽろと不死者がもれてきていたが、その数は脅威となるほどではない。堀に落ち、底に到達し、未だ水の流れぬ堀をよじ登ってきた不死者を払い落とすために、冒険者部隊が、傭兵部隊が、松明を片手に剣を振るう。いくら相手が再生したとしても、この堀がある限り、こちらの優位は動かない。

 八体の骨のゴーレムが歩いてきているという報告があったが、土のゴーレムと殴り合いをさせておく。骨のゴーレムは崩れ、再生し、また崩れ、再生した。これが前進してくれば恐るべき脅威になっただろうが、骨のゴーレムは殴り合いに夢中で、堀の中に落ちて這い上がってくることはなかった。


 そうして時が過ぎ、深夜を回ったころ――


「水が来るぞー!」


 ついに堀は河に繋がった。濁流が堀の底に溜まった不死者を飲み込み、荒れ狂う。その効果は絶大である。「不死者は流れる水を、決して渡れない」と言ったのは誰であったか。何であれ、そこに残ったのは、豊かに水を湛えた、巨大な堀であった。不死者たちは――彼らが呼吸を必要とするわけではないが――溺れた。たとえ人間であったとしても、その堀を渡るのは容易ではあるまい。


「弓兵部隊と砲兵部隊が到着したぞ!」


 髭の傭兵ギルド長バルクが報告を上げてくる。今は不死者の時間だが、太陽が昇り、再生不能となった後でなら、弓や砲も立派な戦力となるだろう。


 上空に、一体のシルフがやってきていた。間違いない。ナルシアだ。すぐに降下してくる。


「海賊ギルドは河を遡ることを了解した。明け方ごろには、援軍が到着するはずだ。それと、エルフとドワーフからも、義勇兵が募られたとの知らせが入った……しかし、まさか不死者四万相手に、持ちこたえているとは思わなかったぞ!」


 ナルシアは僕を抱き上げて言った。僕は、ナルシアに、満面の笑みで返した。

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