第十七話 不死者の軍団 後
王都。積み上げられたゴブリンとオークの骨があった。共食いによって肉は剥ぎ取られ、骨だけが山のように積まれていた。
「死よ……魔王の名において命ずる。死よ……我に力を与えよ。死よ……我に軍団を与えよ!」
カタカタカタ。骨が喜びに打ち震える。
たちまち骨が組み上がり、一人の骸骨の兵士が生まれた。同様に、二人目、四人目、八人目、十六人目、三十二人目、六十四人目、百二十八人目、二百五十六人目、五百十二人目……骨は時を逆巻きにしたように組み上がり、約四万の骸骨の軍団になっていった。
組み上げるときに余った骨に魔法をかけると、八体の骨のゴーレムが生まれた。
カタカタカタ。不死者たちは関節を鳴らして笑った。
カタカタカタ。カタカタカタカタ。
「こうなるのは最初から分かりきっていた」頭まで覆う、黒いローブの男、魔王は呟いた。
「進軍の果てに平和な王国を作ろうという発想は、ゴブリンやオークには無い。彼らは奪うだけ奪い、死ぬべくして死ぬ。哀れでか弱い、ただの暴力装置でしかない」
「だが彼らを率いてきた私にも責任がある。復讐? 違う。嫉妬? 違う。憎悪? 違う。これは罪滅ぼしだ。魔王軍の一人として、私は死ぬまで戦い続ける。そのためには死者をも、冒涜をも、悪魔をも従えよう」
夕日は沈む。魔王はいつかどこかで見たような、デジャヴを感じる。あれは戦場でのことだったか。自分が魔王になる前に、ああ、綺麗だと思った夕日ではなかったか。
「ああ、綺麗だ。日が沈み、夜が来る。不死者たちの時間がやってくる」
カタカタカタ。カタカタカタ。カタカタカタカタ。
「行け。血をすすって渇きを満たせ。生けとし生ける者を根絶やしにせよ!」
魔王はふと天を見上げた。
雲間に月が見えた。
月は不死者たちを見下ろし、面白おかしく笑っているように見えた。
王冠を被った国王は怒っていた。シルフからの連絡を受けた魔術ギルドが、進軍に反対したからだ。
「死者がよみがえるだと? そんなことはありえん。魔王は既に逃げ去った。いま国王が王都に凱旋しなくて、いつするというのだ! どうせあの小妖精の小僧が、手柄を全部自分の冒険者ギルドのものにしたいがための大嘘であろう」
「しかし、もう夜になります。急いで帰っても、出迎える者もおりません」魔術師は言った。
「くどいぞ。余には亡き父に会うという理由がある。どうしてもというなら、私一人で……な、なにをする。やめろ魔術師! 風の精霊に乗せて私をどこに連れて行くつもりだ!」
「嫌がるようなら無理矢理にでも引き返させろという命令です」
「国王に、余に命令できる者などあるものか!」
「いいえ、できるのです。冒険者ギルドのギルド長ならば。我ら魔術ギルドは、傭兵ギルドは、冒険者ギルドの下に位置します。国王陛下。どうかご理解いただきたい。冒険者ギルドは再起動したのです」
「馬鹿な! 百年前に滅んだギルドが、王権を越えて命令を発するだと!? そんなことは認められん! 断じて認められん!」
「国王陛下。大盟約についてはご存じですか? 『たとえ国が滅びようと、たとえ文明が滅びようと、我らは一つ。冒険者は共に助け合い、再びギルドはよみがえる』」
「そんな古い盟約がまだ生きているはずがない!」
「残念ですが、まだ有効です。前前国王陛下も、前国王陛下も、大盟約に対しては異論を差し挟まなかった。いや、異論を唱えられなかったのです。『たとえ国が滅びようと、たとえ文明が滅びようと――』つまり、冒険者ギルドは、国家や文明を超越する存在なのです」
「あの半妖精の小僧が、余の王国よりも上と申すか!」
「はい。ヒューレット・ドラゴンスレイヤーは旧冒険者ギルド最後の冒険者であり、同時に新冒険者ギルドの最初の冒険者でもある。それは貴方のお父上も認めておられたことです」
「ヒューレット・ドラゴンスレイヤーだと……あの者はあの戦いでドラゴンをも屠ったというのか……あのちびすけが……ドラゴンを……たった一人で……」国王はそれを聞いて意気消沈した。
ドラゴンスレイヤー。その称号を持つ者には、全ての法を超越した権限が与えられる。本人は申告してこなかったが、エルフのナルシアの報告により、ドラゴンの頭部に損傷が確認された。ヒューレットの立場は、本人の知らぬ間に、ぺこぺこ謝りのヒューレットから、名軍師ヒューレットに、そしてヒューレット・ドラゴンスレイヤーへと進化を遂げていた。
「よかろう。そのヒューレットの言うとおり、余は引き返そう」ようやく国王は負けを認めた。
カタカタカタ。関節を鳴らして笑う者たちがいた。
カタカタカタカタ。カタカタカタカタ。
「不死者の軍勢です! 国王陛下、お逃げください!」
「ここは我々魔術師たちが、傭兵部隊が食い止めます! シルフが消えたなら、走ってお逃げください。後ろを振り返らず、全速力で!」
白い骸骨の軍勢が、地平線から湧き出してきていた。




