第十六話 不死者の軍団 前
都市リヨンから運び込まれた木材が届き始めると、それが何層にも積み上げられて、暖を取るために火が焚かれた。キャンプファイヤーである。その周囲で、僕たちはあらかじめ焼かれていた非常食、薄くスライスされた黒パンで食事を取った。負傷兵たちは、医療班の持ってきたアルコールで傷口を消毒された。僕が苦情に対応して決めたとおり、交代制で夜の見張りが置かれ、他の者たちは泥のように眠った。
夜が開け、太陽が昇る。兵站部隊が続々と物資を――食料やテントや医薬品を――運んでくる。僕たちは臨時の司令部だった場所に本格的に陣を構え、まず商人たちを呼び寄せた。土地と建物を、すなわち財産のほとんど全てを失った彼らには、冒険者と傭兵たちを相手に商売をする権利があった。
とはいえ、部隊を相手に売れるものの種類は、それほど多くない。商人たちが命からがら逃げ出すときに、荷馬車に載せて持ち出した巨大なチーズと芳醇なワインが、そして魚の缶詰、果物のジャムなどの食料品が、高値であっても飛ぶように売れた。
中には、危険を顧みず、リヨンから出張してきた商人もいた。リヨンは内陸の都市であったから、彼らは特産品である羊や牛などを連れて来て、丸焼きにした。僕も少しおこぼれを頂戴した。
王都ノルディーの商人たちの元締め、魚屋ギルド、もとい海賊ギルドは無事だろうか。帰る港が無くて苦労してはいないだろうか。彼らのガレオン船団は長い航海には慣れているはずだったが、闇の軍勢の船団に飲み込まれてはいないだろうかと、僕は心配した。
僕たちはリヨンからの補給を受けながら、丸一日かけて、部隊を徐々に前進させた。若き国王陛下からの、一刻もはやく王都を奪還しろという苦情(命令というべきか?)に、僕は異を唱えた。偵察に出た騎兵の斥候のうち、約半数が帰ってこなかったのだ。無事帰ってきた者も、王都の周辺はまだ危険だと口を揃えた。王都のある北の方角には、まだ煙が立ち上っているのが見える。
僕は魔王軍の残存勢力が王都の周辺に散らばって残っていると考え、魔術ギルドの判断を仰いだ。それで騎兵より安全な、風の精霊での偵察が決まった。
後方にある都市リヨンは無事である。食料の若干の不足はあるが、それも荷馬車の数が多くなれば解消されるだろう。兵站は途切れてはいない。逃げてきた市民や農民たちも、まだ疲れ切ってはいない。士気は高い。
慌てることなく王都に迫り、魔王軍を包囲殲滅する。計画はこのように決まった。
「ヒューレット。貴方はずっと寝ないで仕事をしてきた。ここで少しの間、眠っておくべきだ」ナルシアが提案した。
僕はその言葉に甘えることにした。ナルシアの膝をまくらにして、僕は目を閉じた。
「お疲れ様、ヒューレット」ナルシアも瞳を閉じた。僕らは眠った。
「我らが名軍師様は眠ったようだな」
「若き国王陛下は一刻も早く王都を奪回せよと言っている」
「魔王軍など恐るるに足らず」
「先陣を切るのは国王陛下の部隊であるべきだ」
「にわか冒険者ギルドなどに手柄を奪われてなるものか」
「部隊を二手に分け、片方を王都に向かわせよう」
「勝利は既に我々の手のうちにある」
夢を見た。それは恐ろしい夢だった。魔王は死者の骸骨を使って、不死身の軍団を作ろうとしている。いま攻めてはだめだ。魔王軍を侮ってはだめだ。彼らは死すらも操る。彼らは強い。彼らは敗北を知らない。いま攻めては――無駄死にだ。
数刻後、僕が目覚めたとき、拙速な国王陛下の部隊は、傭兵ギルドと魔術ギルドから引き抜かれた四分の一の部隊は、既に出発した後だった。残された四分の三の部隊は、軍師である僕が起きるのを待っていた。
「軍師殿。我々も追撃するべきではないでしょうか?」
苛々しながら、頭をかきむしりながら、僕は若い魔術師に言った。
「この大馬鹿者! 何寝ぼけたことを言っているんですか。王都には四万からの死体があるんですよ。彼らは不死者になって、王都の守りを固めているはずです!」
「なんですって!?」魔術師は取り乱した。
僕は部隊に進軍の停止を命じておかなかったことを悔いた。
もし僕の夢が真実になるとすれば――疲れを知らない不死者たちの軍が王都に残っているとすれば――若い国王陛下は死ぬ。この国は再び後継者争いに巻き込まれる。士気は地に落ち、すべてがぐちゃぐちゃになる。そうなればこの戦争は負けである。
「いますぐ全軍に通達。残った軍を再編成し、夜までに国王陛下の軍に追いつきます。魔術師! シルフを召喚してください。国王陛下には事情を説明して――ああ、もう、この際無理矢理でもいい――魔術ギルドの力で引き返させるように。その腰骨を砕くまで、四万の不死者の軍団は延々戦い続けるんですからね!」
「い、いますぐ通達致します!」
「ナルシア。起きてください、ナルシア」僕はナルシアを揺すり起こす。
「ヒューレット? どうした?」ナルシアは目覚めた。
「国王陛下が先走って部隊を動かしました。状況は最悪です。僕の夢が確かなら――もう一度戦争が起こります。今度こそ、生きて戻れるか分からない」




