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第十四話 大合戦 前

 朝。都市リヨンからの物資で補給を済ませた冒険者部隊は、魔術ギルドの従える風の精霊(シルフ)に乗って、まさに風のように前線に運ばれていた。


「王都は滅んだ! 予言の日は過ぎ去った!」


 半ばボケた白髪頭の学長が操る風の精霊(シルフ)の数が一番多く、一番大きい。だてに学長を務めてはいないということか。僕はアーティファクト、欠片の剣を腰に差し、一番高いところ(空中のシルフの上だ)から地上を見下ろし、指揮を取る。あの部隊はこっち、あの部隊はあっち。ちっともいうことを聞かない兵ばかりで苛々する。兵員編成が終わる前に魔王軍に動かれては元も子もない。


「魔王軍に動きがある。約三万のゴブリンとオークが進撃を開始した」同じく空中にいるナルシアが僕に報告を上げる。


「兵員編成は間に合う?」僕は問う。


「このペースなら余裕で間に合うだろう。だが、なぜ三万? 敵は少なく見積もっても六万は居たはずでは?」


 僕は問われて、最低最悪の結論を導き出す。


「食料が無くて、共食いしたんだ。この三万は腹が減った状態じゃないぞ。今度こそ食料を手に入れようと、全力で襲い掛かって来るはずだ」


 ドラゴンが飛来するのに備え、カタルの塔の教師たちの、火の精霊(イフリート)四体も上空に待機させてある。ノルディー城からの最後の報告によれば、ドラゴンの数は残り四匹。相打ち覚悟で挑めば、なんとか撃破できる数である。

 だが、そこに一つの異変が起こった。





「空中司令部より傭兵部隊に報告! 馬に乗った魔王が現れました! 先陣を切って魔王が来ます!」


「くっ! そう来たか!」


 傭兵長バルクは未だ編成されぬ傭兵部隊に焦りを隠せずにいた。魔術師のシルフどもの助けを借りずに展開するつもりであったが、この規模での展開と会戦は初めてだ。商隊の護衛を任務とする傭兵たちにとっては、まったく未知の経験である。むしろシルフに身を任せた、素人同然の冒険者部隊に編成で遅れを取る始末だった。


 魔王単独での中央突破。そんな事態は想定されていない。それは即ち、この作戦の失敗を意味するのか?


 否。シルフで先行した魔術師たちは、巨大な土の精霊(ゴーレム)を大量に召喚し始めた。ゴーレムには、立ち上がらずに匍匐ほふく前進を命じてある。馬や兵が入れぬよう、動く土塁を作る作戦である。たとえ魔王に「滅びよ」と命じられても、ゴーレムを構成する土はそのまま崩れて残るという仕組みだ。


 これには魔王も困惑したようだった。土煙を上げてゆっくりと前進するゴーレムたちを前に、魔王は馬の足を止めざるを得なかった。ゴブリンとオークの軍も、それは同じだった。平原は土ぼこりにまみれ、前が見えない。それで稼いだ時間で、中央の冒険者部隊、傭兵部隊、後方の弓兵部隊、砲兵部隊が編成を終えた。


「兵員編成完了! 現時刻をもって攻撃開始!」僕は拡声器で言った。


 魔術師たちは一斉にゴーレムたちを土に帰した。そして、もうもうとした土煙が収まると、そこには睨みあう両陣営があった。後方から、弓兵部隊による矢の雨と、砲兵部隊による砲撃が、上空から、イフリートの火の玉(ファイアボール)による爆撃が始まった。それが暗黙の戦闘開始の合図だった。


「我々の軍は勝てるだろうか?」ナルシアが聞いた。

「勝てると思うよ。負ける要素は全部潰したつもりだから」僕は断言した。


「うおおおおおお!」「ウガアアアアア!」


 双方の部隊が衝突した。ソードスミスの剣とオークの剣がぶつかり合う。メイスとメイスがぶつかり合う。チョップマンの巨大な樽のようなハンマーがゴブリンたちを薙ぎ払う。メイド服のシャルロットは、足に隠したナイフをオークの喉元めがけて投げた。ガンスミス特製の、ライフリングを施された狙撃銃が、油断している遠くのオークの頭を狙い撃った。


 これまで数を頼りに押してきた魔王軍は、その戦略を見直すべきだった。隠れるところの無い平原で、矢と、砲撃と、爆撃が魔王軍を襲った。魔王軍の死傷者はたちまち増えた。


 魔王軍に残された最後の切り札、残り四匹のドラゴンが飛来したのは、そんなときだった。

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