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第十話 魔王軍上陸

 青空の下。

 無数の船(ロングシップ)と十隻のガレオン船が海を埋め尽くしていた。無論ガレオン船は闇の軍勢の作ったものではない。イーグランドから奪い取ったものだ。


 巨大な水柱が立つ。ガレオン船からの砲撃である。海賊ギルドの偵察用の小船が、木っ端微塵に吹き飛ぶ。海賊ギルドのガレオン船たちは、少数で陣形を組み、より遠方からの砲撃でこれに対抗しようとした。


「撃ち方、始めー!」「面舵いっぱいー!」


 ガレオン船とガレオン船の間で、大砲の撃ち合いが続く。しかし後から後から湧いてくる闇の軍勢の船団に、彼らは徐々に押されていった。彼らの名誉のために言うが、多くのロングシップを相手に善戦はしたのだ。彼らはたくさんのロングシップを沈めた。だが数が違いすぎた。

 この時代に、もし制海権という概念があるとすれば――それは闇の軍勢の船団によって奪われていた。


 最初のロングシップが砂浜に到達し、乗組員が大地を踏みしめる。

 闇の軍勢、ゴブリンたち、オークたちが、それぞれの雑多な武器を持ち、綺麗な砂浜になだれ込んだ。


「一番乗りだぜえええ!」「ギャハハハハハ!」「血が足りねえええ!」「人間どもはどこに隠れた!?」


 ビーチは完全に敵の勢力下に落ちたかに見えた。


 だが。


「――そう簡単に上陸させてなるものか」


 そこで仕掛けられていた地雷が、隠れていた兵士によって起爆される。第一波は地震と間違えるような巨大な連鎖爆発に巻き込まれ、跡形も無く消し飛んだ。その死体の山を踏み越えて、海から第二波、第三波が押し寄せた。血と火薬の臭いのする浜辺で、ゴブリンたちは嬉しそうに鼻をひくつかせ、ぎょろぎょろとした目であたりを見渡すと、上陸を開始した。

 かくして血塗られた橋頭堡きょうとうほは作られた。


「来る……ドラゴンが来る……」


 逃げ遅れた者は見ただろう。海を越えて、六匹ものドラゴンが飛来した。三千枚の鱗がその身を固める、空飛ぶ要塞である。

 海岸沿いにある白壁の家々を、ゴブリンとオークは蹂躙して回った。ゴブリンたちによって、打ち捨てられた白い住居に火が放たれ、逃げ遅れた者を焼く紅蓮地獄と化した。

 だが人間が居ない。殺すべき相手がいない。時折逃げ遅れた人間を見つけては、オークは他の人間はどこに逃げたのかと尋問した。だが彼らはついに答えなかった。オークのなまりがひどすぎて言葉が聞き取れなかったのだ。


 沿岸の石造りの城は固く武装されていた。這い寄る者に対しては、矢が雨のように降り注いだ。ゴブリンとオークの軍には多くの死傷者が出た。加えて、城壁の穴から覗く計二十門の大砲が、闇の軍勢をして頭を上げさせなかった。オークたちは戦況の不利を見て取ったが、ゴブリンたちは愚鈍にも前進し、死傷者の数は増え続ける一方だった。


 闇の軍勢の頼みの綱はドラゴンだった。ドラゴンは城壁の上に、内側に降り立ち、そこに陣取る長弓兵や砲兵をその火炎の息で薙ぎ払った。効果はてきめんだった。降る矢の量は目に見えて減り、砲撃はペースダウンした。

 運ばれてきた破城槌が城門を何度も何度も打った。昼過ぎ、ついに城門は破られた。


「ヒャッハアアアア!」「殺せ殺せええええ!」


 ゴブリンとオークは石造りの城に攻め入った。その勢いたるや、門が詰まるのではないかという具合だった。お約束じみた虐殺が始まる。城は容易く落ちた。だがそこにあるべきはずの戦利品は無かった。金銀財宝は無かった。食料は無かった。穀物庫は空だった。

 城を落とすために多くの犠牲を払った闇の軍勢は、怒り狂って城に火をつけた。破城槌は城壁を何度も何度も叩いた。得られなかった戦利品の代わりに、彼らはその城壁を徹底的に壊して回った。


 暴勇も過ぎれば野蛮になる。彼らを纏め上げ、再び組織するために、魔王が現れた。頭まで覆う、黒いローブを着た男だった。オークたちは魔王の言うとおりに木を組み、布を張り、仮の住まいを作った。本国から補給物資が到着するのに、三日を要した。


「いつまでもやられっぱなしだと思うな!」

「どうせ帰る港は無いんだ! この命、くれてやる!」


 海賊ギルドのガレオン船たちは、互いに競うようにしてこの補給線を砲撃し、妨害した。それで魔王軍(もはやこの言葉を使ってもいいだろう)は、退路を絶たれた。食料を得るには、引くか、進むかしなければならない。そして引くことは論外であった。


 こうして血肉に飢えた魔王軍の、王都ノルディーへの進撃が始まった。

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