予知夢
こんなことを言ったところで誰も信じないだろうが、私は昔から予知夢を見る。
なにかをなくすとか、新発売の限定品が売れ残っている場所とか、そういうのを夢で見るちょっとした便利な能力だ。
これがあるからと言って悪いことはしないし、テストに悪用したりなんてしないから誰にも迷惑をかけない。ささやかな優越感に浸れる程度の能力だと思う。
私が予知夢を見るときは、必ず決まって【ルーシー】と名付けた人形と眠る日だ。ルーシーはおばあちゃんのお友達が作ってくれた布人形で、柔らかくていつも笑っているかわいい子だ。小学校の頃から可愛がっているから多少は汚れているけれど、それでも今も変わらず私の大切な友達だ。
「おやすみなさい、ルーシー。いい夢見せてね」
人形に話しかけて眠るなんて頭のおかしい子ってお母さんは心配してるけど、だって私の友達だもん。今夜もいい夢を見せてくれる。はずだ。
おぞましい夢を見た。
同じ学科の由美子さんが首を吊る夢だ。彼女は教員志望で日々努力を重ねているし、とてもいい子だと思ってる。
けれど、彼女がいじめを苦に首を吊る夢だった。
彼女がいじめられているなんて話は聞いたことがないし、そんな風には見えなかった。
けれども不思議とリアリティがある。そして、死体の第一発見者が私だった。
なぜかグロテスクな印象は受けない。ただ、ずっしりと重い。カーテンレールに掛かったネクタイで、椅子に体育座りをした彼女は首を吊っていた。
首吊りはなにも身長より高い位置でなければ出来ないなんてことはない。海外では座った首吊り自殺の法が多いなんて本で得た知識を得意気に彼女の前で披露した覚えがある。
まさか。
そんなはずがない。
由美子さんが私のアイディアを採用したなんてことはあるはずがない。
ぐっしょりと嫌な汗をかいた。時計を見れば午前四時だったが二度寝する気にはなれずにそのまま身支度を調える。
まだ、ひんやりとした彼女の、硬直を始めた感触が残っているような錯覚に襲われる。
「ルーシー、あんなの嘘だよね?」
ベッドの中で微笑んでいる人形をはじめて不気味だと感じた。
もう、この人形とはお別れするべきなのだろうかと感じる。
しかし、長年大切に扱ってきた人形だ。こんな一度の妙な夢を人形の性にするなんて馬鹿げている。
きっと考えすぎだ。
いつも通り学校に行けば、由美子さんだって普通だろう。
昼休み。購買で昼食を買って次の教室へ向かおうとすれば楽譜のコピーを取っている由美子さんの姿があった。
「あれ? 加藤ちゃん、久しぶり」
「久しぶり。部活の?」
「ううん。次の講義で使うの」
どうやらクラリネットの教本らしい。彼女はクラリネット専攻だったのかと思う。よく考えると私は彼女の事をあまりしらない。そこそこ親しくしているつもりだったのに、深く関わっていなかったのかもしれない。
「頑張ってね」
「加藤ちゃんもね」
いつも通りの軽い挨拶で別れる。けれどもその瞬間、由美子さんの死体のヴィジョンが浮かんだ。
それは夢の通りで、彼女は椅子に座って首を吊っている。
一瞬、彼女の背後に蝙蝠のような、蜥蜴のような奇妙な生物が見えた気がする。
もしかすると、それは昔祖母が言っていた【不幸】という影かもしれない。
けれども、振り向いた先に居た彼女はいつも通り、真面目としか表せない姿でコピーされた楽譜に熱心に書き込みを始めていた。




