嘘つきは百合の始まり
2作目です
エイプリルフールの真実を巡る少しビターな読み切り百合SSです
わたしとみつきは友達だ。
他に形容のしようがない。高校生になってから知り合ったから幼馴染じゃない。まだ出会ってやっと1年経とうとしているのだから、まあ親友でもない。常に一緒に行動するわけでもないから、腐れ縁とかいうやつでもない。ただの友達だ。
まあ、遊びに行くときはお互い一番に誘うし、困ったら頼るし頼られる。信頼できる仲良しってところ。
「ねー、春休みの宿題やった?あたしまだ数学のやつ終わってないんだよね〜」
なんて、隣の席になって話しかけられなきゃ何もなかったかもしれない。わたしもみつきもクラスの中心からは絶妙に離れているものの、いつでも明るくて能天気なあの子と、授業中だと声が小さくなるわたしは似たもの同士ではないだろう。
「ほんともう……」
思い返すように苦笑したが、私の視線はインスタの画面で止まった。
昨日の夜投稿されていたストーリーズ。メンション先は……3ヶ月ほど前に出来たみつきの彼氏。クリスマスにデートして告白したとかなんとかいう。スマホ画面が部屋に差し込む春の陽光に照らされて光った。私の顔も反射しないし、いいねの押された恋人つなぎも見えなくなり。
(べったりだよね。ラブラブって感じ)
彼氏が出来てからあの子は浮かれっぱなしだ。今まで一緒に撮ってたBeRealも、スタバの新作を一緒に飲みに行く相手も、友達のわたしじゃなくなってしまった。別に、それもゼロじゃないし私とつるむ時間だって普通にある。友達のままだ。ただ、優先事項がほんの少し変わっただけ。
――♫
と、目を逸らした画面に黄緑色の通知バーが着信音と共に現れた。
「あ。やば、時計見てなかった」
今日はみつきとLINEで通話しながら春休みの宿題を片付ける約束になっていた。時刻はAM10:18。10時くらいからしよって話をしていたのに、ぼんやりしていた。
「ちょっとあゆ!遅い!誘ったのそっちでしょ!」
受話器ボタンをスライドした瞬間これだ。まあ仕方がない。いつもなら私が彼女を急かす側なのだから。あゆみという名前を親しく縮めてくれる友人に申し訳ない声音で返す。
「ごめんって。ちょっとスマホ見てた」
良くも悪くも素直で遠慮のないわたしたち。ごまかす必要も何もない。
(いや。みつきのインスタ見てちょっと虚無ってたなんて言えないけどね)
音声通話に表情は乗らない。
「さ、宿題やろ。去年の二の舞いになりたくないんでしょ?」
「うるさいなー。あたしだって好きでやってないわけじゃないもん。やる気が起きなかっただけ」
「それを好きでやらないっていうんだけど」
スマホ越しにけらけらと笑う声が聞こえた。くだらないことで笑うなんて、あの子はほんとに素直というかなんというか。
「さ、早いとこやってめんどいの終わらせよ」
しばらくは他愛もない雑談をしながらわたしとみつきは課題の問題集を進めた。もっとも、実際にちゃんと問題を解いていたかなんて見えない。花粉が入ってこないように閉め切った窓に光で浮き上がったホコリが写っていた。
「でさ、彼ぴと明日春服見にいくの。ショッピングデートってやつ」
「ふーん。GUの新作のトップスとかみつきに似合いそうだもんね」
ふと、顔を上げてスマホの横にあったカレンダーに目が留まった。4月1日。時計の針はまだ12に差し掛かっていないのを確認して、画面の先に向かって私は言う。
「彼氏君と過ごすのもいいけれどさ、あえて離れてみたら次会った時の感動が増すかもよ?」
嘘だった。
(彼氏ばっかじゃなくて、わたしと一緒にいてよ)
そんな本音を茶化して誤魔化した。でも、今日は嘘をついても許される日。方便なのだ。でも、そんなわたしはやはり大馬鹿者だったようだ。スマホの向こうから興奮した声が聞こえた。
「え、それ天才すぎない!?あゆ最高!大好き!」
シャーペンがカタっと音を立てて机に落ちた。白いノートに黒い点がひとつ。
(みつきは今、天才って言った。最高って言った。わたしのことを、『大好き』って言った)
それくらいわたしには衝撃だった。別にいつもの言葉のはずなのに。大好きなんて、今までだって言われたこともよくある。ただ、あの子に彼氏が出来てからは、あまり聞いていなかったように思う。
ベランダに置いてあるプランターで新芽が出ているのが勉強机からも見えた。
「あれでしょ、離れたら会ったときによりキュンみたいな。まあ今も春休みだから会えてないけどさ、でもありだわ」
みつきがうんうんと頷いているのが見えるようだった。わたしたちふたりとも、もう問題なんて解く気がなくなっていた。
「てかさ、今日エイプリルフールじゃん。あいつに『アンタなんか嫌い〜』とか送っちゃおうかなー」
画面の向こうで一人盛り上がっているのをわたしはどこか遠い場所にでもいるように聞いていた。実際彼女は同じ高校といえど電車通学しないと来られないくらい距離の隣の市に住んでいる。でも、それは物理的な距離でしかないのだ。わたしからしたら。
そして、能天気なあの子は逆に時間というものを気にしていないようだった。否、気づいていないだけ。
(盗られちゃったな)
春の太陽が天頂に昇ろうとしていた。真上から落とされる光で、わたしには前髪の影が出来ていた。たとえその面積は狭くとも、黒い。
「いいんじゃない。でもさ、せっかくなら今日だけじゃなくて定期的に送りなよ、そのライン」
わたしとみつきは友達だった。
Pixiv様の投稿企画「執筆応援プロジェクト〜嘘〜」参加作品です




