10月6日 『嘘つき』
僕の母は嘘つきだ。大した怪我じゃないくせに大慌てして、ちょっぴし痛いだけで寝たふりをする。熱もないくせにしんどいと言って、そのくせ僕が風邪をひいたら突然手のひらを返したように「すぐ治るよ」と楽観主義になる。この前まで自分は大病を患ったかのように寝込んでいたのに、僕にはちっとも優しくない。
母は普段片付けもせず、気が向いた時にしかやらない。なのに突然部屋中の掃除を始めたり、布団を干したりし始める。今日はやけに元気だなと思った時は、真夏でもふかふかのパジャマを重ね着したりする。暑くないの?と聞くと、「母さんは寒いんだよ」と笑っていたりする。
へーんなの。嘘ばっかり。
ある日母が残した体温計を拾った。何の気なしにスイッチを入れると、前回の履歴が残っていた。そこには38.2度の表示があって、僕は慌てて母に呼びかけた。
「母さん、熱あるの?」
「ううん、ないよ」
「でもこれ、母さんの熱でしょ?」
すると母は困ったように笑って、
「ああ、それを見たの?でも大丈夫。母さん38度が平熱で、ちょっと高いくらいが調子いいんだから」
そう言ってまた笑った。
母は嘘つきだ。大したことない時は大慌てするくせに、本当にしんどい時は笑ってる。本当はずっとしんどかったくせに、全部全部、嘘ばっかりだ。




