8月22日 『しろ子さん』
なんかホラーっぽいタイトルだけど、ホラーじゃないよ。
昔々あるところに、角砂糖のように小さく可愛らしい女の子が下りました。白く透き通るような美しい肌に、人々は彼女のことを『しろ子さん』と呼ぶようになりました。
けれどしろ子は、白いものが嫌いでした。
「だって個性がなくてつまらないもの。そうだわ。私、黄色になりたいわ」
彼女はそう言うと、黄色の絵の具でからだ中をペタペタ塗り始めました。
全身が黄色になった頃、一匹のカエルが訪れました。
「しろ子さん、こんにちは。ご機嫌いかが?」
「最高よ。全身黄色になったもの」
「残念。それじゃあもう、しろ子さんじゃないね」
そう言うとカエルはぴょこんと跳ねて、遠くの方へ逃げて行ってしまいました。
「おかしいわ。黄色がいけなかったのかしら」
しろ子さんは黄色をやめて、次は赤色で全身を塗ることにしました。
全身が赤色になった頃、一匹のスズメが訪れました。
「しろ子さん、こんにちは。ご機嫌いかが?」
「最高よ。全身赤色になったもの」
「残念。それじゃあもう、しろ子さんじゃないね」
スズメもまた逃げて行ってしまいました。
「何よ、つまらないわ」
彼女はそう言うと、様々な絵の具を取り出して、いろんな色を全身に塗りたくりました。
からだが虹色に染まった頃、一匹の蝶々が訪れました。
「しろ子さん、こんにちは。ご機嫌いかが?」
しかし、しろ子は答えません。蝶々は飛び上がるとこう言いました。
「なあんだ、しろ子さん、ここにいたの」
蝶々は白い絵の具のついた鼻の先に止まりました。
しろ子は不屈そうに鼻先に息を吹きかけます。
「何よ、白の何がいいって言うの!」
すると蝶々は答えました。
「だからいいんじゃないの。白は何者にもなれるけど、白には誰もなれないのよ」
しろ子はそれを聞くと、絵の具をきれいさっぱり落としました。
「なあんだ、やっぱりしろ子さんだ!」
カエルとスズメも帰ってきました。
「そうだった。これが私の一番好きな色だったんだわ」
しろ子は今日も絵を描きます。白いキャンバスに白い絵の具。白い指で白い虹。
けれど不思議。なんだかそれは、七色みたい。