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第90話 スペシャルゲスト?

「うーん……コンテナの概念をうまく伝えるのは相当難しいですね」


マンスリーマンションの一室で、下山は頭を抱えていた。

下山はWeb Tech Expoに提出したプロポーザルが採用され、登壇が決まっている。

現在はそのプレゼンテーション資料を作成していた。


「そもそもコンテナってなんッスか?」

竹野の疑問はもっともだ。

この時代のIT分野では普及していない概念で、実際に使われるのは十年ほど先になる。


「アプリケーションの依存関係をパッケージ化して、独立した実行環境を提供する技術だよ」

「むむむっ、わかったようなわからんような感じッス」

「だよねぇ」


下山は説明に難儀した。

すでに普及している技術を説明するのは容易いが、最先端の技術を一般化して解説するのはかなり難しい。

江戸時代に半導体を持ち込んだ場合、これを理解できるように説明するのは困難を極めるだろう。


「たとえば、必要最低限の仮想化したOSから、ウェブサーバーとデータベースを動かそうとする場合はどうする?」

「まず、ウェブサーバーとデータベースに必要なソフトとライブラリを入れるッス」

「テストや本番環境の増設などで、仮想化したOSを増やす場合は?」

「その追加した仮想化したOSにライブラリを入れるッス……なるほど! あらかじめ用途に沿ってインストールされたものを用意しておくんッスね!」

「そう、必要なソフトやライブラリをパッケージ化しておいたものをコンテナと言うんだ」


竹野は「なるほど」と言いながら、仮想化技術のドキュメントを読み返していた。


「相変わらず、柊さんの説明はわかりやすいですね」

下山は柊のアドバイスを元に資料を更新していた。


「竹野は私の説明じゃちっともわからなかったのに……」

新田は呆れていた。


「新田の説明は専門的過ぎるんだよ」


景隆は竹野に同情した。

新田の言葉を理解するためにはかなりの専門知識が必要となる。

竹野は一般的なエンジニアよりは、新田の話しについていけている方だ。


下山は柊と新田の技術を吸収して、メキメキと頭角を現している。

今回の登壇もその刺激になっているようだ。


「下山さんのトークは何とかなるとして、ブースの状況はどうなってるの?」


翔動はWeb Tech Expoのスポンサーであり、スポンサーブースが割り当てられる。

スポンサーブースでは商品やサービスの紹介をしたり、展示したりする。


景隆は上田にイベントスポンサーに関連する業務を任せている。

翔動のブースでは、主にユニケーションの紹介が行われる。


「ユニコーンとのコラボが動いているから、これをメインに打ち出していこう」

「わかったわ、まみやりさんのイラストが入ったノベルティも配れるようにするわ」

「よろしく頼む」


ユニケーションは、Web Tech Expoで大々的にプロモーションする予定で、サービス開始もこれに合わせている。


「なっちゃんは来ないッスか?」

「頼めば来てくれそうだけど、さすがに高校生を呼ぶのはマズいと思うので、今回はパスだ」

「そッスか……残念だけど仕方ないッスね」


大河原はベータテストのユーザーから、多くの人気を獲得しているため、スポンサーブースに呼べば集客が期待できる。

しかし、景隆は大河原の学業に影響が出ることや、露出した場合のリスクを考慮して見送った。

(まだ顔出しもしていないしな……)


「代わりと言っては何だけど……」

柊の次の言葉に、一同はざわついた。


「神代さんと美園さんが顔を出すと思うぞ」

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