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第88話 海外デビュー

「柊と大河原の教材、めちゃくちゃ売れてるわよ」

ワンルームマンションの一室で、新田はジミーから来たメッセージを伝えた。


「もうローンチしたのかよ!」


景隆は展開の早さに驚いた。

ローンチとは、サービスが公開されることを指す。

英語版のユニケーションは、ジミーによってすでにサービスが開始されていた。

決済システムも動いており、売上も立っている。


「なっちゃん、世界デビューッスか……英語なのでちゃんと理解できてないッスけど、めっちゃコメント書き込まれているッスよ。」


竹野は教材に寄せられているコメントを眺めていた。

教材の提供者は、購入者のコメントを閲覧できる。

翔動のアカウントは関係者に共有されていた。


「どれどれ……すげー盛り上がってるな……」


─────

Her voice is simply enchanting!!!

omg omg omg...

It's a pleasure to listen to.

lol

Her wonderful voice is a true gift.

─────


日本(こっち)はまだベータテスト中なのに……」

「考え方の違いだな。『Done is better than perfect.』で行くつもりなんじゃないか?」

「完璧よりも実行しろってこと?」

「とりあえずやってみて、あとで改善するってことね」


柊は未来の実業家の言葉を引用したが、景隆と新田には意図が伝わった。


「日本じゃ難しいんじゃないの?」

上田が悩ましそうに言った。


「日本は品質を異常に気にする文化ですからねぇ」

下山はアストラルテレコムで散々品質を言われ続けていたため、実感がこもっていた。


「それを言うと、私たちもそうですよねぇ」

「そうなんだよなぁ……あいつら『品質ガー』『品質ガー』しか言わないんだよ……」


景隆は鷹山に同意した。

デルタファイブからアストラルテレコムに製品トラブルの報告をする度に品質について問い詰められていた。


「まだ本番稼働をさせていないのは俺の判断だ。機会損失をしていたとしたら俺の責任だよ」

「もう一つの理由もあるでしょ? みんな納得しているし、石動は気にしなくていいわよ」


上田はサバサバと言い切った。

日本版ユニケーションは、映画ユニコーンのプロモーションと同期する戦略である。

景隆はコンテンツを充実させてから、一気に攻勢をかけるつもりだ。


「大河原の声も人気だけど、イラストの評判も高いわ」

新田は追加情報を共有した。


「まみやりさんのイラスト可愛いですよね! 菜月ちゃんの声にピッタリ!」

鷹山はかなり気に入っているようだった。


『まみやり』はMoGeのゲーム『シティエクスプローラー』のキャラクターデザインを担当しているイラストレーターだ。

景隆は株主であること、位置情報API提供をしている立場を利用し、彼女を紹介してもらった経緯がある。


「柊と知り合いだったのが驚きだよな」

「いゃ、俺が()()()()()()()()()だけだった……忘れてくれ」


柊はバツが悪そうに言った。

何かを隠しているようだが、問い詰めても答えは返ってこないだろう。

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