第85話 ウェブデザイナー
「いいところですね」
ジミーの交際相手、森ノ宮雪江は落ち着いた雰囲気をもつ妙齢の女性だった。
ジミーと森ノ宮は翔動のビジネスに興味を示したため、景隆は二人をワンルームマンションの一室に招待した。
1LDKのマンスリーマンションは新築と言ってもいいほど新しく、LDKと洋室が壁のない状態でつながっており、非常に広々とした空間を執務スペースとして使っている。
柊の謎の力が発動して確保した部屋である。 ※1
キッチンには最新設備が施されており、柊はそのオーブンで焼き立てのクッキーを二人に振る舞った。
「Absolutely delicious!」「んまっ!」
ジミーと森ノ宮は夢中でクッキーを平らげていた。
「お二人が作成した『Nihongo Navigator』を拝見しました。デザインがすごくいいですね」
「ありがとうございます」「ありがと」
柊は森ノ宮の仕事を称賛した。
Nihongo Navigatorはジミーが作成したeラーニングサービスだ。
そのウェブデザインは森ノ宮が担当しており、おしゃれでオリエンタルなデザインのウェブサイトは、英語圏のユーザーに人気があるようだ。
「私もフロントエンドは得意じゃないので、見習いたいです」
新田の得意分野はバックエンド部分で、ウェブサイトの見た目にはこだわりを持っていない。
翔動の技術力は非常に高いが、デザインができる人材が不足していた。
「私もジミーもユニケーションを使ってみましたが、すごくいいサービスですね」
「ありがとうございます」
景隆は自社のサービスについて、ユーザーの声を直接聞く機会はめったになかったため、森ノ宮の言葉は嬉しかった。
「Nihongo Navigatorを汎用的なeラーニングサービスにはしないんですか?」
「ユキちゃん、今の仕事もあっテ、日本語のコンテンツ作るので精一杯」
「とりあえず、公式コンテンツは日本語コンテンツだけでいいんじゃないの?」
景隆の発言に、ジミーと森ノ宮は顔を見合わせた。
「ユニケーションの公式コンテンツ、すごく良くできていると思います。須賀川さんの声も聞き取りやすいですし」
「英語にすれば、ちょー売れるヨ」
二人は柊(資料)と大河原(声)のコンテンツを高く評価しており、これを北米で売りたいようだ。
「ソレニ……動画のエンコードがちょー速イ。アレはボクには作れないヨ」
「確かに! あれはびっくりしました」
「あぁ、あれは新田の変態力によるものだからなぁ」
「ちょっと、石動!」
柊は「うーん……」と考え込んで言った。
「とりあえず、英語版のコンテンツを作ってみるか。大河原さんの英語力も問題ないみたいだし」
「オカワラ?」
「柊が資料を英語にして、須賀川が声を当てるってさ」
「Great!」
翔動は霧島プロダクションを通さずに、直接大河原と契約できる権利を持っている。
(後は大河原の都合次第だな)
「そうだ! 森ノ宮さん」
「はい?」
「森ノ宮さんはフリーランスですよね? ユニケーションのウェブデザインをお仕事として引き受けていただけませんか?」
景隆が食い気味に言ったことで、森ノ宮は戸惑っていた。
「ジミー、どう思う?」
「スゴク、いいと思うヨ」
かくして、翔動に優秀なウェブデザイナーが加わった。
そして、世界にNatsuki Sukagawaの名が轟くのは少し後の話になる。
※1 「芸能界に全く興味のない俺が、人気女優と絡んでしまった件」123話 https://ncode.syosetu.com/n8845ko/123/




