第84話 海外展開
「なるほど、海外展開か」
マンスリーマンションの一室で、景隆の報告を聞いた柊は興味深そうに言った。
「ジミーが言うには、ユニケーションをローカライズすればいいんじゃないかって」
ローカライズとは、製品やサービスを展開先の地域に合わせることを指す。
「北米の市場規模は日本よりはるかに大きいからな。ほかの英語圏の国にリーチできるのも大きい」
「そりゃそうだ」
「実店舗が必要なビジネスなら、色々とハードルがあるんだが、ITサービスは比較的容易だ」
「システムさえ用意すれば、サービスは提供できるからな」
景隆はグローバルなIT企業に勤務しているため、海外展開のイメージはある程度想像できた。
「海外進出する場合のリスクは何だ?」
「まぁ、いろいろあるが……気をつけないといけないのはリーガルリスクだな」
「法令遵守とか知的財産権とかか……やっかいだな」
「ワ○メちゃんのパンチラでも、児童ポルノ扱いされてもおかしくはない」
「げげげっ。宗教上のタブーとかもありそうだな……そう考えると日本の表現の自由はすごいな」
景隆は訴訟大国と言われる国で、このような問題に対応するのはかなり大変そうだと感じた。
「ちなみに、未来では日本のコンテンツサービスすら影響を受けている」
「というと?」
「クレジットカード会社が、突然決済停止したんだ」
「え?! なして?」
「成人向けコンテンツの表現規制だ」
「おい、決済事業者にそんな規制をする権利はないだろ!」
「海外で児童ポルノでの収益を支援する意図があったという判例があったんだ」
「それでリスクを避けたのか……ひどいな」
「俺の時代では国内のクレジットカード事業者だけが使えることになっている」
「マジか……」
柊の話を聞く限りだと、未来ではかなり価値観が変わっているように感じた。
「技術的なところではデータプライバシーの問題もあるが、これも未来では厳しくなっている。特に欧州だな」
「何も考えないで始めたら、痛い目に遭いそうだな……」
データプライバシーによる規制は年々強化され、事業は都度対応に追われている状況だ。
「不要かもしれないが、海外法人を作ると大変だしな。今の翔動の体力でどれだけ対応できるか」
「話を聞けば聞くほど、海外展開って大変なんだなと思ったよ」
「解決策がなくはない」
「マジで!?」
「ライセンスビジネスにするんだ」
「なるほど、日本のウェブサービスも海外のライセンスを買っているしな」
柊の案はライセンスフィーやロイヤリティを得ることだった。
運営をパートナー企業に任せることで、諸々のリスクはその企業が負うことになる。
「その場合は取り分が減るけどな」
「でも、さっき言ったリスクを取るよりはよさそうだな」
景隆は光明が見えてきた気がした。
「ジミーは、すでに日本語のeラーニングサービスをやっているんだ。
これをユニケーションと統合したいと思っているらしい。
なので、ジミーにユニケーションの北米事業を任せればいいのか」
「本人にやる気はあるのか?」
「まだ漠然と考えている感じだったな」
景隆は改めてジミーに話を聞くことにした。




