第83話 再会
「ジミー・ペイジと言いまス。ポートランドから来ましタ」
「まさかの本名?……あーっ!」
ジミーを名乗る人物を見た景隆は、思わず声を上げた。
ジミーの来日は大河原が東京に来る日で調整された。
大河原の都合に合わせるほどジミーは大河原に会いたかったようだ。
「何よ?」「どうしたんですか?」
新田と大河原は怪訝な表情で景隆を見ている。
「聖書を落としたやつだよ」
「ああっ! そうなんですね!」
景隆は過日行われたデルタファイブサミットでジミーを見かけていたが、大河原はオペレーションルームにいたため、ジミーとの面識はなかった。
「どゆこと?」
「実は――」
置いてけぼりになった新田に、景隆は経緯を説明した。
「なるほど……ジミーが聖書を落としてしまって、大河原がそのアナウンスをしたってことね。
そして、ユニケーションの教材で同じ声を聴いて、会いたくなったと」
新田は「そんな偶然ある?」と、信じられないといった顔をしていた。
ユニケーションはベータテスト中であり、海外のユーザーがいることは全く想定していなかった。
「アノ……オカワラさんとハ?」
「あ、そうか」
ジミーは大河原の芸名しかわからない。
「Nice to meet you, Jimmy. I am Sukagawa. I'm happy to meet you」
「オーマイガッ! 本物のスカガワさんの声でス!」
ジミーは余程感激したのか、大河原の手を両手で握りしめている。
(日本じゃセクハラだぞ……)
大河原は思わぬ事態に面食らっていた。
「ジミーの日本語は割と上手いけど、大河原の英語はそれ以上ね」
「須賀川は芸名って……説明しにくいな。発音も難しいし」
「今日は須賀川でいいんじゃない」
「大河原、ジミーがいる間は須賀川でいいか?」
「はい、問題ないです!」
景隆は大河原の貴重な時間を奪ったことに負い目を感じていたが、大河原はご機嫌だった。
***
「ボクは日本語が話せるようになりたいでス。なので、会話は日本語でお願いしまス」
一同は秋葉原のカフェで落ち着くことにした。
集合場所を秋葉原にしたのはジミーのたっての希望だ。
「日本語上手いね」
「はい、ユキちゃんと話すタメ、がんばってまス」
ユキちゃんはジミーの彼女のことだろう。
景隆は外国語の一番の上達方法は、その国の恋人を作ることだと聞いたことがあった。
ジミーの様子を見る限り、その説には信憑性があるように思えた。
「スカガワさんの動画、繰り返し観ていまス。スゴク、スゴク、日本語の勉強になりましタ」
「あ、ありがとうございます」
「翔動の動画だよ!」
(アクセス数が増えている要因はお前だったのか……)
「ボクの日本語の講座、ユキちゃんがやってくれてまス。スカガワさんにも出てほしでス」
「須賀川はプロだからな。出すもの出してくれたら考えてやるぞ」
「あんた、マネージャーじゃないでしょ!」
「出すモノとハ?」
「ギャランティ? フィー?」
「OK、わかりましタ。オイクラマンエンですカ?」
「意外と日本文化に精通しているな……」
大河原の出演については、マネージャーの船岡に相談ということで話が付いた。
「ボクが日本に来たのハ、スカガワさんとユキちゃんに会うのも目的ですガ――」
「そこはユキちゃんを先にしないとマズいだろ!」
(こんなんでも凄腕のプログラマーなんだよな……)
「あなたたちのeラーニングサービス……ユニケーションをUSAでもやりませんカ?」
「「えええっ!?」」




