表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/250

第81話 超低金利時代

「LBOの一種だな」

景隆とマンスリーマンションの一室に戻った柊が説明した。


「LBO?」

「レバレッジド・バイアウト――文字通り、レバレッジをかけた買収だ。

買収先の将来のキャッシュフローを当てにした資金調達方法だよ」

「船井さんがよくやっている手法か」

「今回は、それの小型版だな」


「それにしても……ずいぶんと金利が低いんだな」

「あぁ、今はデフレだから、超低金利時代だ」


この時代は、後に失われた三十年と言われ、経済が低迷を続けている。


「ちょっと待て、なんでデフレだと低金利になるんだっけ?」

「あぁ、そっからか……」


柊は当時の自分を思い出しているようだった。


「今は景気が良くないだろ?」

「あぁ、平成不況とか言われているな」

「景気が良くないということは、企業の売上が落ちるということだ」

「まぁ、そうだな」

「そうなると、企業は売るために販売価格を下げる」

「デフレだな」

「企業は販売価格を下げるために賃金も下げる。そうなると?」

「賃金が下がった消費者は消費を減らそうとする……デフレスパイラルの完成か。恐ろしいな」


景隆は今の国内景気の状況が深刻であることを理解し始めた。


「なので、中央銀行は政策金利を下げて需要を喚起しようとしているんだ」

「融資を受けやすくして、消費や企業の設備投資を促進するってことか」


「そうだな……まぁ、中々効果が出ないので、いずれは政策金利がマイナスになる」

「マジで!? ……預金しているとお金が減らされるのか?」

「日銀の当座預金金利がマイナスになったんだ」

「日銀の当座預金って?」

「金融機関が日本銀行に開設する当座預金だ。

主に金融機関どうしの決済や国との決済に使われる。

金融機関からしたら、最も安全な預け先になる」

「その金利をマイナスにするってことは、当座預金に預けておかないで、金を使えってことか……」


「中央銀行の政策で金融機関が超低金利で資金を調達できるから、企業に融資するインセンティブが働くんだよ」

「四十五銀行が融資をしたがる理由がわかったよ。

でも、それなら企業はじゃんじゃんお金を借りるはずじゃないか?

うちみたいな零細企業に話が回ってくるほど借り手がいないのか?」


「経済が不安定な状況なので、借り入れを控える企業が多いというのが理由の一つだ」

「ほかの理由は?」

「バブル崩壊後は、銀行による貸し渋りや貸し剥がしがあった」

「たしかに、ニュースになっていたな」

「その結果、企業は資金繰りに苦しむようになって、銀行への信頼が損なわれたんだ」

「『銀行は晴れの日に傘を貸し、雨の日に取り上げる』ってやつかぁ……せっかくの低金利なのに企業は借りたがらないって世知辛いな……」


景隆はこれまでの人生で、金融政策には興味がなかったが、これをきっかけに関心が高まってきた。


「しかし、柊が今後の金融政策を知っているということはすごいことじゃないか?」

「あぁ、俺たちがもっているアドバンテージだ。今後の債券価格もわかるからな」

「そっか、俺が運用しているポートフォリオに債券も入れるべきかもな……投資といえば株という固定概念があったよ」


景隆は改めて、柊が持っている情報の強力さに驚いた。


「話を戻すけど、こんなに低い金利で借りられるなら、借りない選択肢はなさそうだな」

「あぁ、ROEも良くなるからな」


ROE(自己資本利益率)は資本に対しての利益の比率だ。

エクイティ(株式)で資金を調達すると分母の資本が増加するため、ROEが下がる。

これは投資効率が悪いことを意味する。

デット(借入)で資金を調達することで、資本効率を高めることになる。

デットは返済義務を負うが、四十五銀行が提示してきた金利はかなり魅力的だった。


「四十五銀行から金を借りてエンプロビジョンみたいな会社を探して買収すれば、手元資金を温存したま事業規模が拡大できるんだよな」

「そうなんだが、同じ業種にこだわる必要はないぞ」

「たしかに! 柊なら何か心当たりがあるんじゃないか?」

「今回はお前が見つけてみろ」

「『あぁ、あるぞ』って言うと思ったのにー」


景隆は柊から自分の決断力を試されている気がした。


「仮に資金に制限がない場合は柊なら何を買う?」

「銀行かな」

「マジで! 低金利だと銀行の経営は厳しいんじゃないか?」

「狙いは別にある」


柊は景隆が思っていたよりも、大きな事業構想を持っているように感じた。

(とりあえずは、今動かせる資金をどこに割り振るかだ)


「なぁ、柊、こんなのはどうだ――」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ