第77話 煮えきらない柊
「鷹山かぁ……」
柊は思い悩んでいるようだった。
景隆にはその理由が全く想像がつかなかった。
***
「私も石動さんの会社で働きたいです!」
「はあっ!?」
鷹山は突拍子もないことを言い出した。
「なんで?」
景隆にとっては当然の疑問である。
「なんか楽しそうじゃないですか!」
「え? 俺が何やっているか知ってんの?」
「いや、知りませんよ?」
「おーぃ!」
景隆は鷹山が考えていることがさっぱりわからなかった。
「石動さんが楽しそうにしていることはわかります!」
「ほぇ?」
(楽しそう……なのか?)
***
「フルタイムじゃないよな?」
「あぁ、俺と同じで、パートタイム希望だ」
「それはよかった」
鷹山は「どうせ、デルタファイブでは石動さんと一緒に仕事しているんですから、翔動でも同じタイミングで働いたほうが効率的ですよね」と言っていた。
景隆は「いや、そのりくつはおかしい」と言いかけたが我慢した。
いずれにせよ、デルタファイブを辞めてまで翔動に就職するにはリスクが高すぎるだろう。
「鷹山は優秀だ。それは俺が保証する」
「お前のほうが付き合いが長いもんな」
柊は景隆よりもデルタファイブの勤務経験が長い。
鷹山のことはよく知っているだろう。
「じゃあ、問題はないんじゃないか?」
「まぁ……そうだな」
景隆は柊の煮えきらない態度が気になった。
何かを隠しているようにも見えるが、それを追求したところで答えが返ってこないことはよく知っている。
「いいんじゃないか。アルバイトなら辞めたくなったらいつでも辞めていいし」
柊は何かを吹っ切ったような表情で言った。
「じゃあ決まりだな。新田にも話を通しておかないとな」
「そうだな……おそらく問題はないだろう」
***
「――ありがとう鷹山。では改めてよろしく」
柊と初めてあいさつを交わした鷹山は不思議な感覚を覚えた。
(初対面……だよね?)
柊とは初対面のはずであるが、とてもそんな感じがしなかった。
柊のことは石動から断片的に情報を得ているが、伝聞から得られた情報とはまた違う感じであった。
(石動さんに似ているんだよね)
デルタファイブに勤務しているときは、ついつい石動のことを目で追ってしまうため、石動のことをよく知っていた。
鷹山は、柊とは会ったばかりなのに、柊には石動と同じような波長を感じる自分に驚いていた。
(それに……なんで?)
石動と柊が一緒にいる空間は、彼女にとって、えも言われぬ多幸感を醸し出していた。




