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第75話 寵児

「――以上がブースの仕様になります」


Web Tech Expoの会場であるコンベンションセンターの会議室では、寺岡によるスポンサー説明会が行われていた。

寺岡はWeb Tech Expoを主催する一般社団法人の代表理事であり、スポンサー担当を兼務している。


「すごい人だな……」

景隆は想定以上の参加者に驚いていた。


「スポンサー申込みがあまりにも多くなったので、枠を増やしたらしい」

「神代さんの影響だな」


景隆は出席者の熱気に圧倒されていた。

神代がこのイベントに参加することで、絶好のプロモーションの場になると考えているのだろう。


***


「柊くん、ちょっといいかい」

((ええええっ!))


説明会が終わり、声をかけられた人物に景隆と柊は驚いた。


「船井さん、お久しぶりです」


翔太と石動は船井との面識があった。 ※1

船井はエッジスフィアの社長であり、IT業界の寵児と呼ばれている著名人だ。

エッジスフィアもイベントのスポンサーの一社であるが、大企業の社長が自ら業務連絡的な説明会に足を運ぶことは異例と言える。


「どうしてここに?」

柊も意外に思ったようだ。


エッジスフィア(うち)もスポンサーをしているからね……というのはもちろん建前で、君に会いに来たんだ」

「私が来るかどうかはわかりませんよね?」


船井がこの説明会に来たところで、柊に会える保証はない。

船井はいくつかの子会社を束ねる立場で、非常に多忙なはずだ。

来るかどうかわからない柊に会うために、この説明会に参加することは非効率に思えた。


「製作委員会がダイヤモンドスポンサーだからね。あれは柊くんの仕込みだろ? となると今日ここに君が来る可能性は高いと判断した。他にも理由があるが……これは企業秘密だ」

「なるほど……」


説明会には映画のプロデューサーである山本と、広報を担当している蒼も参加していた。


***


「映画の撮影は順調に進んでいるようだね」


三名はコンベンションセンター内のカフェに移動した。

船井は三十代の若さにしてエッジスフィアを上場するほどの大企業までに成長させている。

このことがメディアの関心を呼び、カリスマ社長などとも呼ばれている。


「はい、おかげさまで」

「どういうことだ?」


景隆は柊が社交辞令とは思えないニュアンスで言ったことに対して疑問を持った。


「神代さんのオーディションのときに、狭山のアドバイザーとして船井さんが就いていたというのは話ただろ?」

「あぁ、そうだったな」

「普通にやったら勝てないと思って、いろいろとがんばったんだ」

「あぁ、それで……」


狭山は柊の中学の同級生だ。 ※2


「僕はその()()()()を聞いてみたかったんだよ。狭山くんから聞いた内容では要領を得なくてね」

「なるほど」


景隆は柊が警戒していることを感じ取った。

柊は表情には出していないが、同じ途中までは人生を歩んで来たからこそわかる感覚であった。


「神代さんは資金調達をする場面の役作りのために、リアルの現場で出資者に説明したんですよ」

「すごいことを思いつくな」


船井は感心していた。

すでに柊は、船井ほどの人物に一目置かれる存在であるようだ。


「どんな事業の資金調達をしたんだい?」

「NDAがあるので、詳しく話す場合は事務所の許可が必要になります」

「さすがだね、柊くんは信用できる人間のようだ」


柊が更に警戒を高めたように感じた。これはあくまでも景隆だけが感じている感覚だ。


「オーディションではクラスタシステムのデモを行いました」

「あぁ、狭山くんから聞いているよ。電源を引っこ抜いたんだってね」

「ええ、システムの構成は――」


柊の話は興味深い内容だった。

神代のオーディションでは、実際のシステムを使うほど大掛かりな仕掛けをしたようだ。 ※3


「――なるほど……これは僕の完敗だったな」

「難しい課題をこなしてた神代さんがすごいんだと思います」

「確かにそうだね。狭山くんに同じことを要求されても無理だったと思う」


船井はカリスマ社長と評されるだけのこともあり、話を引き出すのが上手だった。


「君たちのビジネスのことも聞きたいな」

「はい、翔動は――」


柊に促され、石動は翔動の事業を説明した。

公開できる内容は事前に柊と意識合わせをしていたため、淀みなく話すことができた。


「うーん、石動くんは僕の若い頃みたいだよ」

「本当ですか!」


景隆は素直に喜んだが、柊は複雑な感情を持っているようだ。

依然として、柊は考えていることを表情に出さないよう、気をつけているように見えた。


「石動くん、柊くん。エッジスフィア(うち)と組まないか?」

※1 第57話 https://ncode.syosetu.com/n7115kp/57/

※2 「芸能界に全く興味のない俺が、人気女優と絡んでしまった件」 第25話〜 https://ncode.syosetu.com/n8845ko/25/

※3 「芸能界に全く興味のない俺が、人気女優と絡んでしまった件」 第31話〜 https://ncode.syosetu.com/n8845ko/31/

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