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第71話 話題

「何だこれ? すげぇ回っている……」


マンスリーマンションの一室で、柊は翔動が提供するeラーニングサービス『ユニケーション』のアクセスログを確認していた。


「夢想花か?」

「ネタが古すぎんだよ! いい加減、読者に匙を投げられるぞ」

「おぃ、メタ的な発言は辞めろ。で、何が回っているんだ?」

「ユニケーションの動画だ。もっと言うと、大河原さんの動画だけが突出して繰り返し再生されている」


ユニケーションは現在ベータテスト中である。

正式公開前のサービスを一部のユーザーに試用してもらうことだ。

サービスの改善点などのフィードバックを受けて、品質改善を行えるなどの利点がある。

ベータテストのユーザーは無料でサービスを利用できたり、サービス開始後に割引特典などを受けられる。


ベータテストには一般ユーザーのほかに、エンプロビジョンの関係者も加わっている。

これは人材の自己学習を促すための施策だ。

ユニケーションにはIT関連の公式コンテンツを用意しており、音声は大河原がアフレコしている。


柊が言うには、コンテンツを履修済みのユーザーが、繰り返し動画だけを再生しているようだ。


「あー、なっちゃんッスね。俺もやってみたッスけど、あの声クセになるッスよね」

「竹野、おまえもか」

「今度はカエサルか……まぁいいだろう」


竹野が言うには、大河原の声が耳に残り、何度も聞いてしまうような中毒性があるとのことだ。


「ネットでも話題になっているッスよ」


┌────

551 名前:名無しさん@潜入中 :

なっちゃん先生 ・:*:・゜☆d(≧∀≦)b゜+.゜イイ


552 名前:名無しさん@潜入中 :

本人?


553 名前:名無しさん@潜入中 :

CV: 須賀川菜月って書いとるがな


554 名前:名無しさん@潜入中 :

ちょっとベータユーザーになってくる!

└────


「ちょ……専用スレができてるのかよ!」


景隆は戦慄したと同時に、自社サービスがリリース前にもかかわらず、巨大掲示板で話題になることに喜びを感じた。


「これの影響だと思うんだけど、エンプロビジョンの人材のスキルが高くなっているんだよ」


ユニケーションは習得度をテストする機能がある。

自社コンテンツのテストで、優秀な成績を残した人材にはいい仕事が与えられ、報酬も高くなる。


「柊さんが作った資料もわかりやすいですよ。さすがアクシススタッフで教鞭を執っただけありますね」


下山には、コンテンツのレビューを任せていた。

柊はアクシススタッフの教育事業の講師を兼務していた時期があった。


「柊は資格試験本の執筆もしていたからな」

「マジッスか!? 柊さん、只者じゃないと思っていましたが」


竹野は景隆に渡された柊の著書をめくりながら、「これがそおッスかぁ」と読み込んでいた。


「いいじゃないか、ユニケーションで価値を高めた人材を上田がじゃんじゃん売ってくれれば、俺達も儲かる」

「そうだな。大河原さんには臨時ボーナスでもあげたらいいんじゃないか?」

「ふむ……ボーナスか」


景隆は思案した。

大河原は金銭的なものよりも、別の何かを希望する気がした。


「ま、今度聞いてみるか」


大河原の要求は景隆の想像の斜め上だった。

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