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第68話 改革

「エンプロビジョンを改革する」

「異議なし、元から買収する理由の一つだったしな」


マンスリーマンションの一室で、柊はエンプロビジョンの改革を提案した。

エンプロビジョンを買収する目的の一つとして、企業価値を高めて翔動の収益に貢献する狙いがあった。


「柊のことだから、色々と考えているんだろ?」

「あぁ、まずは人材の単価を上げる」

「今の営業じゃ、難しくないか?」

「綾部さんという営業なんだが、彼には辞めてもらう」

「いきなり厳しいのが来たな……柊がそう判断するなら、よほど駄目なんだろう」


景隆は柊が夜食として用意した焼きそばを食べていた。

(ここにいると、どんどん太りそうだな……)


「それで、代わりの営業にアテはあるのか?」

「営業をやっている俺の同期をスカウトした。仕事()できるやつだ」

「よく翔動(うち)みたいな、小さくて実績のない会社に入る気になったなぁ……下山さんは事情があったからわかるが」

「そうなんだよな……俺も不思議だよ」


柊は複雑そうな表情をしながら焼きそばを食べていた。


「次に人材の質を強化する」

「具体的には?」

「ユニケーションで自社コンテンツがあるだろ? あれを社内研修で使う」

「なるほど、それならコストかからないな!」


翔動が提供する予定のeラーニングサービスは、講師側のユーザーが自由にコンテンツを提供できる。

加えて、公式教材としてITエンジニアになるためのコースが提供されている。

音声の読み上げは大河原が担当しているため、景隆はこれが人気コンテンツになることを期待している。


「それだけだと、個人の自主性に任せることになるので、テストでのスコアが高い者には給与または時給を高く設定する」

「それはやる気出そうだな!」


ユニケーションでは修得度を測るためのテスト機能が提供されている。


「これがうまくいったら、採用の強化をする」

「高く売れる人材が作れるならそうすべきだな」

「あぁ、待遇もよくなるからエンプロビジョンで働きたいと思う人が多くなると思う」

「採用は誰がやるんだ?」

「社長の豊岡さんがやっていたんだけど、引き続き担当してもらう」

「確かに下山さんや竹野くんを見る限り、人材自体は優秀だったんだよな……売り方が下手だっただけで」


エンプロビジョンは小規模な事業であるため、社長の豊岡が実務を担当していた。


「最後に業務プロセスの効率化だ」

「具体的には?」

「現状では抱えている人材のスキルセットや顧客ニーズとのマッチングを適切に行うシステムがないんだよ」

「営業の能力に依存していたのか……しかもその営業がヘボかったと」

「単価は高すぎず、安すぎず、適切に設定する必要がある。これまでは綾部さんが鉛筆を舐めながら決めていたみたいだけど、この部分の属人化を解消する」

「そのシステムを一から作るのか?」

「アクシススタッフでも同じ問題を抱えていることがわかったので、未来で使われている営業支援システムを真似て作ろうと思う」

「なるほど、そこは新田と相談だな」


後に、このシステムが翔動にとって大きなビジネスとなることを二人はまだ知らない。


「さすが柊だな、伊達に年を食ってない」

「それ、褒め言葉じゃないだろ……」


話が一段落したため、柊は冷蔵庫からビールを取り出していた。


「あ、俺からもいいか?」

「なんだ?」

「マーケティング……という宣伝なんだけど、大河原が有名になったら使いたい」

「そういえば、キリプロを通す必要がないんだったな……ちょっと若すぎる気もするけど、学生バイトもいるから問題ないか」

「さすがにテレビCMとかは打てないけど、ネットでコツコツと露出を増やしていけばなんとかなるだろ」

「それじゃ、大河原さんのプロモーションはお前に任せた」

「俺ができそうなのはそれくらいだからな、任された」


この時の二人は、大河原の持つ影響力を甘く見ていた。

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