表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
244/250

第244話 指し手

「将棋モバイルはすこぶる好評だぞい」

長麦は小気味よい手つきで銀を動かした。


「それはよかったです」

景隆は安堵しながらも、すっと歩を動かした。

(俺、こんな高待遇受けていいのかな……?)


長麦の自宅で、景隆は長麦と将棋を指していた。

長麦邸は純和風の趣きを感じさせる邸宅だった。

畳敷きの広間が中心で、季節の花が生けられており、掛け軸には「無尽」の文字が力強く書かれていた。

これは書道も嗜む長麦自身が書いたものと思われる。


『将棋モバイル』とは将棋連盟の公式モバイルアプリケーションの名称だ。

開発や運用は翔動が行っており、現在はベータ版がリリースされている。


棋戦の棋譜中継が主な機能であるが、AIによる候補手が表示されるのが特徴だ。

この時代の将棋AIはアマチュアレベルであり、ユーザーの期待値は元から高くなかった。

しかし、いざ蓋を開けてみると、プロもうなるほどの手を示すことがあり、一気に話題を呼ぶことになった。

このことから、将棋ファンだけでなく、将棋連盟に所属する棋士や女流棋士も使うようになった。


長麦はアプリケーションの出来にご満悦で、景隆を自宅に招待していた。

将棋連盟会長としては、新たな金づ――スポンサーとなった景隆のことは邪険にできないだろう。


そして、特に長麦が気に入ったのは大河原の声と、大河原そのものだった。

景隆はモバイルアプリケーションの説明を将棋連盟にしたときに、大河原を連れて行った。

長麦は自分の孫のように大河原を可愛がり、そのまま目の中に入れてしまうのではないかと思うほどだった。


「しかし、こんなに早く作れるもんかね?」


長麦は感心したように歩を進めた。

二枚落ちで対局しているが、長麦は一切の手心を加える余地もないらしく、景隆は攻めあぐねていた。

長麦はITに関して理解があるほうで、ベータ版と言え、あっという間にシステムができあがったことに驚いていた。


「実は赤字覚悟でして」


景隆はこのアプリケーションを早期に作り上げるために、MoGeに開発の一部を委託していた。

最終目標は自社が開発した将棋AIによるトッププロとの対局で、将棋モバイルはそのマイルストーンだ。

景隆としてはこの過程をできるだけ短縮したかった。

そして、長麦を認めせるには本気でやらないと足元を掬われると、柊から忠告を受けていた。


「そんなんで、大丈夫なのか?」

長麦は容赦ない手を次々と繰り出していた。

(じぃさん、も少し手加減してくれてもいいんじゃないか……)


「はい、なんとか……まだ儲かるかどうかわからないこのアプリに、出資してくれる企業がいるんですよ」

景隆は飛車を大きく移動させて、戦況を打開しようと試みたが、長麦にとっては想定内のようだ。


(このままやられてしまうのも癪だな……)

景隆は本丸に踏み込む前に、ジャブを打ってみることにした。


「ところで会長」

景隆は玉を安全なところに動かしながら言った。


「なんだね?」

長麦は攻撃の手を緩めることなく、銀を進めていく。


「生稲さんより強い()()()がいると言ったら、どうですか?」


これまでノータイムで軽快に指していた長麦の手が、ピタリと止まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ