第240話 真・ホワイトナイト
「お、尾幌さん!?」
「「おや?」」
驚いた景隆に、武佐と尾幌の二人が意外そうな表情を浮かべた。
「驚いたな。私を知っているのかね?」
船井が事前情報を与えていないことを景隆の反応で察したのだろう、尾幌は不思議そうに景隆に尋ねた。
露出が多い船井や知名度が高い武佐と比較して、尾幌を知る者はそうそういない。
「ええ、創革インベストメントさんは目標の一つでもありますから」
景隆の言ったことは半分本音だ。
そして、半分の理由が問題だった。
さくら放送とメトロ放送の買収劇において、本来であれば尾幌がホワイトナイトになるはずだった。
しかし、景隆と柊が介入したことで、目の前にいる尾幌ではなく、ホワイトナイトは景隆になってしまった。
柊が経験した世界線によると、世間では尾幌がもう少し知れ渡っているはずだった。
「ぼろやんを目標にするとは、いいところに目をつけるね」
(ぼろやんて……)
武佐はキラリと頭を光らせながら言った。
***
「聞いてくれよ、石動くん。実は尾幌さんがメトロ放送を救済するために動いていたらしいんだ」
船井は澤の花を飲みながら、大トロの刺身を箸でつまんでいた。
「船井くんはまだ甘いんだよ」
尾幌はよく冷えた獺祭をじっくりと味わっていた。
おそらくM&Aでは百戦錬磨の尾幌が先に本気を出していたら、あっという間に経営権を掌握していただろう。
彼の雰囲気にはそれほどの貫禄があった。
「そ、そうなんですね……」
既知の情報であったが、そうとは言えず、演技ができない景隆の表情は引きつっていた。
「そうすると、石動くんではなく、ぼろやんがホワイトナイトになっていた可能性もあったんだね」
武佐は松阪牛のたたきにわさびをつけながら、話を聞いていた。
どうやら、彼は同じグループ会社の尾幌の動きを把握していなかったようだ。
「まさか、石動くんのような若者がそんな大勝負に出てくるとは思わなかったよ」
尾幌は感心したように言った。
船井よりも景隆が持ち上げられたことで、景隆はくすぐったくなった。
「聞くところによると、船井くんよりも早く動いてたそうじゃないか。どうやって情報を掴んだんだい?」
武佐の疑問はもっともだろう。
よほど確信がなければ、翔動のような駆け出しの企業が百億単位の資金を投じるのは無謀だ。
武佐はこれまで無謀とも言えるほどさまざまな企業に出資していたが、その彼にとっても景隆の行動は理解不能に映るはずだ。
「実は北山さんの動きを追っていまして――」
さくら放送の最初の筆頭株主に躍り出たのは北山率いるNZアセットマネジメントだ。
景隆は北山の動きを事細かに説明したことで、この場の全員が納得したようだ。
実はこの情報は柊によるものではなく、芦屋からもたらされたものだった。
さらに芦屋は尾幌の動きもある程度把握していたようだ。
姫路が何十億もの資金を、ぽんと出してきたのは芦屋の情報網によるものだと景隆は睨んでいる。
尾幌は景隆の話を聞きながら、「すごいな、あの子のようだ」とつぶやいていた。
(もしかして、芦屋さんの前職って……)
「あ、あのっ、尾幌さんにお伺いしたいことがあります」
「何だね?」
「尾幌さんがメトロ放送救済に動こうとしていた理由をお聞かせいただけませんか?」




