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第228話 変わる評価、変わる心境

「もしかして、石動さんですか?」

NNTテクノロジーズのマシンルームで作業をしていた景隆は、この会社の社員に突然声をかけられた。


時間は深夜、景隆は久しぶりに気楽な仕事をしていた。

喫煙所の密談により、鳥嶋のヘルプ要員として景隆が駆り出されていた。 ※1

この決定プロセスに景隆は不満を持ったものの、今の作業の責任者は鳥嶋であるため、一作業員の立場は非常に気楽だった。

翔動では大きな責任を伴う仕事ばかりだったため、仕事とはいえ、息抜きになっていた。

作業をしているシステムは料金請求の明細データを扱っており、日中には停止できないシステムのため、作業は夜間に行われていた。


「はい、石動ですが何かありましたか?」

ヘルプ要員とはいえ、責任者である鳥嶋が席を外している今、顧客への対応は景隆が行う必要がある。


「テレビの番組を見ました! すごくかっこよかったです!」

「そっちでしたか」

(またか……)


景隆は内心、げんなりしていた。

デルタファイブの社内では少し落ち着きを見せたものの、客先に顔を出すと今のように声をかけられることが続いていた。


「石動さんが作業してくれているなら、安心して任せられますね!」

(いゃ、全然関係ねーだろ!)


NNTテクノロジーズの社員は尊敬の眼差しで景隆を見つめていた。

普段、自分が担当しているアストラルテレコムでは厳しい叱責を受けてばかりなので、新鮮な反応ではあった。


しかし、近頃はテレビの影響でアストラルテレコムの社員も景隆を見る目が変わってきている。

その裏には姫路の影響もあるのだろう。


「いやー、石動くんは僕が育てた中でもかなり優秀なんですよ」

(よく言うよ……)

作業を景隆にばかり任せていた鳥嶋が戻ってきて、まるで自分の手柄のように語り始めた。


鳥嶋は技術力は皆無であるが、社内の立ち回りや顧客受けがよい。

そのため新人の頃の鷹山は大変な目に遭っていた。 ※2


お客相手に調子のいいことを言っている鳥嶋をよそに、景隆は自分の会社にこのような社内政治だけに長けている社員が入ってきた場合のことを考えていた。

現在は会社の規模が小さいことから、景隆は全社員の能力をほぼ把握できている。

しかし、この先、会社の規模が大きくなり、多くの従業員を抱えることになると、個々の能力を正確に把握することは困難になるだろう。


デルタファイブでは鳥嶋のような社員がいても周りがサポートしているため、業務が回っているが、自分の会社で同じような状況は作りたくなかった。

(しっかりとした人事システムを作る必要があるな……)


***


「おょ? 石動くんじゃないか」

昼前に作業報告が終わり、ようやく帰れると思った景隆は、NNTテクノロジーズの受付で思わぬ人物と遭遇した。


「鷺沼さん。どうしてここに?」

「今コンサルティングしている案件があってね。思ったより早く終わったんだよん。石動くんは?」


単なる作業要員の景隆と違い、鷺沼はより重要な仕事を任されているようだった。

以前は自分より同僚が重要な仕事を任されることを羨ましく思っていた時期もあったが、今は全く思わなくなってしまった。


「鳥嶋さんの作業のヘルプです」

「おぉ、マシリトの……それはおつかれさんだったね」


同じグループ会社を担当していることもあり、鷺沼は鳥嶋のことをよく知っていた。


「これから昼を食べようと思ってたんだけど、一緒にどうかい?」

「行きます!」


深夜作業でヘロヘロになっていた景隆であったが、相手が鷺沼であったら話は別だ。

※1 第195話 https://ncode.syosetu.com/n7115kp/195/

※2 第23話 https://ncode.syosetu.com/n7115kp/23/

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