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第226話 ピボット

「どうすっかな……」

下山の家から、自宅に帰ってきた景隆は思い悩んでいた。


景隆は蛎殻町に引っ越してきている。

翔動での仕事は深夜まで及ぶため、白鳥ビルに近いという条件で住む場所を決めていた。

白鳥ビルには歩いて行けるほど近い。


景隆は日中はデルタファイブで勤務し、退勤後は翔動のオフィスである白鳥ビルに移動するのが日課だ。

休日は私用がなければ白鳥ビルで仕事をしていた。

したがって、移動時間も惜しい景隆にとって、自宅はできるだけ職場に近い場所である必要があった。

同様に、柊と新田も翔動で遅くまで働いているため、白鳥ビルの近隣に住んでいる。


「何悩んでるんだ?」

柊は景隆から相談事があると言われ、ここに呼んでいた。

現場から直帰するときに、こうして二人で自宅にいることがたまにある。


柊は「相変わらず何もないな」と言いながら、冷蔵庫をあさりつつ、酒の肴を用意していた。

下山のところで夕食までご馳走になっていたため、腹はそれほど空いていない。


「将棋AIのプロモーション方法だ。テレビで大々的に盛り上げたいと思っていたんだが」

「あぁ、なるほどな……」


柊は作ったカプレーゼを食卓に置きながら言った。

(即興でよくそんなものが作れるな……)

景隆は一人暮らしのため、料理はたまにやるが、柊はレパートリーが桁違いだった。

景隆の知らない柊の人生がどんなものなのかは、想像もつかなかった。


「下山さんの件でテレビが怖くなったか」

「それもあるが、世間の俺のイメージがだいぶ実態とかけ離れているんだよな……」


景隆の当初のプランでは、プロ棋士を史上初めて破る将棋AIを大々的にアピールするつもりだった。

ちなみに、景隆は新田に全幅の信頼を寄せているため、自分たちが負けるとは全く思っていない。

仮に負けたとしても、いい勝負ができれば世間は大いに湧くだろう。


「テレビ番組は放送局と制作会社の思惑で作られるからな」

「俺たちが狙った方向にはならない……最悪の場合は人類の敵として演出される可能性もあるな」

「まぁ……なくはないな」


柊は何かを思い出したのか、渋い表情を見せた。

景隆は下山の件でテレビ局を信頼することができなくなっていた。

柊の様子を見る限りでは、未来はもっとひどいことになっているようだ。


「となると、ネットで生中継はどうなんだ?」

この時代(いま)だとインフラと利用者数の両方が足りていなくて、視聴者数はかなり限られるぞ」

「そうなんだよな……」


対局の様子がテレビで放映されれば数百万人程度が視聴するかもしれないが、ネットの配信だとせいぜい数万人がいいところだろう。

影響力の差は圧倒的に大きかった。


「そもそも、テレビで放映してもらうことはできるのか?」

景隆にはテレビ局へのツテはなかった。


「その場合、まずは橘さんに相談だろうな」

「二宮さんは?」

「さすがに番組を企画して主導するほどの権力はないと思うぞ」

「だよなぁ」


翔動が保有していたさくら放送株は売却していたため、ステークホルダーとして放送局に働きかけることはできなかった。

テレビ番組として取り上げてもらうにはコネや資金など、相当なものが必要になりそうだ。

そして、仮に放送が実現しても、放送局の意向次第ではどんな結果になるかわからないというリスクも孕んでいる。


「よし、決めた!」

「何を?」


さすがの柊も、景隆の意図は読み取れなかったようだ。


「俺たちが、インターネット番組の橋頭堡を築く!」

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