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第219話 本性

「あ、そう」

(ん?)


雫石がそう言った瞬間、会議室の空気ががらっと変化した。

例えるなら、入社面接で着ていたビシッとしたリクルートスーツから、ダボダボの寝間着に着替えた――そんな感じだ。


「石動さんは気にしなくていいってこと?」

「あぁ、俺と一緒でいい」

「わかったわ」

(ん? ……ん?)


これまで丁寧な口調だった雫石が一変して急にくだけた話し方になり、景隆は理解が追いつかなかった。


「それにしても立派なオフィスね。できたばかりの会社にしちゃ、分不相応じゃない?」

「色々あったんだよ。ついこないだまでは、マンスリーマンションを借りていたんだからな。その前は貸会議室だ」

「ふーん……」

(おぃおぃ……)


檜垣はオロオロし始めた。

本来であれば雫石を嗜めるべきだろうが、彼女にとって柊は上司になる。

柊がそれを許容している以上、見守っているしかないという状況だろうか。


「田村さんも上田さんもいい人っぽいし、翔動(ここ)は気に入ったわ。ちょくちょく来ていい?」

「お前、さっき石動に学業優先しろって言われただろ? そういえば、試写会のときも石動について回っていたな。なんでそんな仕事人間なんだ?」

「だって、学校つまんないんだもん……」

「成績落としたらクビにするぞ」

「できるものならやってみなさいよ! そもそも、私が成績を落とすわけないでしょ?」


(もぅ、何がなんだか……)

雫石の急変に景隆は全くついていけなかった。


「石動、こっちが本当の雫石だ」

「うそん……」

「ごめんね、石動さん、夢を壊しちゃって」

「ちょっと、ひかり!」


檜垣はようやく、取引先である石動への態度を嗜め始めた。


「檜垣さん、いいですよ。俺と柊は同じようなもんなので」

「でも……」

「橘さんの許可ももらっています」

「えっ! そうなんですか!? でも……」


柊の発言に檜垣は驚きながら葛藤していた。

景隆は彼女の立場に同情せざるを得なかった。


「で? 夢ってなんだよ?」

「石動さんに聞いてみれば?」


雫石は初対面のとき、景隆の反応で自分がどう見られているかを察していたようだ。

(末恐ろしいというか、もう恐ろしいというか……)


「俺は雫石のことをパーフェクトヒロインだと思ったんだよ」

「んー……なるほどな……」

「?」


柊には景隆のコンテキストがすぐに伝わるが、檜垣にはピンと来ていないようだ。


「パーフェクトなのは変わっていないわ」

「それ、自分で言ったら、全然パーフェクトじゃないぞ」

「俺、中学生だったら、雫石にコロっと騙されていると思う……」

「あら、それは光栄ね。柊さんは?」

「俺の感想なんか、どうでもいいだろ」


中学生時代の柊は景隆と同じ記憶を共有しているため、答えは自明だったが余計なことは言わなかった。

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