第217話 試写会5
「映画を拝見しました。演技に関しては素人ですが、雫石さんの演技にとても引き込まれました」
これは景隆の本音だった。
雫石は友情出演ということもあり、映画での出番はごくわずかであったにもかかわらず、その存在感は圧倒的で非常に強烈なインパクトを与えた。
「あら、うれしいです」
このパーティの参加者は一人を除き、すべて社会人だ。
その一人は目の前にいる中学生になったばかりの少女である。
しかし、彼女の存在には違和感がなく、立ち振る舞いのすべてが堂に入っていた。
景隆がパーフェクトヒロインと称したのは容姿だけでなく、理知的な雰囲気や一つ一つの仕草、言動などが文句のつけようがないほど完璧であったためだ。
(白鳥の妹も規格外だったけど、タイプがちょっと違う感じなんだよな……)
白鳥の妹、綾華は格調高いオーラを身にまとっており、宝石のような存在感だ。
対する雫石は親しみやすく、話しかけやすい空気を自らが作り出しているように見えた。
柊によると、雫石の演技の才能の賜物だそうだが、これが演技だと気付ける者は皆無だろう。
「あの、お願いがございます」
「なんでしょう」
「石動さんとは、今後お仕事でご一緒させていただく機会が多くなると思います」
「そうですね」
柊はどんな魔法を使ったのか、雫石の仕事は翔動を優先するよう、霧島と約束を交わしていた。
ユニケーションのサービスは今後中高生向けの勉強教材を拡充していく方針があるため、これをアピールするために雫石をアンバサダーとして起用することで内定している。
「私のことは呼び捨てで構いません、そして、敬語もなしでお願いできないでしょうか?」
(うっ……)
目線、仕草、呼吸――何が要因なのかはわからないが、景隆は雫石の申し出を断ることができないように誘導されていることを感じた。
おそらく演技で培ってきた技術だろうが、これには脱帽するしかなかった。
演技力という面で雫石は神代を目標にしているようだが、神代は必要な時以外には演技をしない。
しかし、雫石は日常生活のほとんどが演技であると柊は言っていた。
これは雫石なりの処世術なのだろう。
その背景には事情がありそうだが、いずれにしても景隆が立ち入ることではない。
「わ、わかった。雫石でいいか?」
「――っ!」
「どした?」
ここにきて、雫石は初めて綻びを見せたように景隆は感じた。
しかし、その理由については皆目見当がつかなかった。
「石動さんは、柊さんとは親しい間柄なんですよね?」
「んー……そうだなぁ……あえて言語化するなら『相方』とか『片割れ』かな」
「なるほど、それでですか……一瞬、柊さんとお話しているような錯覚を覚えました」
(ギクッ!……この子、鋭すぎないか?)
神代は絶えず人間観察をすることによって、演技力を磨いたという。
雫石もこの類ではないかと景隆は考え始めた。
「んー……決めました!」
顎に人差し指を当てて考え込む仕草は、あざとくも見えるが完成された美しさがそれを打ち消していた。
中学生時代の景隆だったら虜になっていただろう。
「何を?」
「この後、石動さんと一緒に行動します!」
「は?」




