表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
213/250

第213話 試写会1

「この作品は、日本映画史に残る最高傑作です。ご覧いただければ、すぐにその理由が分かるはずです」

風間監督の舞台挨拶はこれだけだった。


都内の映画館では映画『ユニコーン』の試写会が行われていた。

数々のプロモーション活動が功を奏し、会場内は期待に満ちた熱気に包まれていた。


(かっこえぇ……)

景隆は風間の一連の言動に見惚れていた。

風間とは制作発表会のときに一度会っているが、あのときより格段に自信に満ちており、この映画に対する手応えがあることがうかがえた。


「きゃああああっ!!」

(なんだなんだ?)

会場内から黄色い声が沸き起こり、その理由はすぐに判明した。


(か……かかか……カッコエエエエェ……)

舞台の壇上には主演の神代が助演の美園を伴って現れていた。

神代は映画の役――原作の主人公を忠実に再現しているのか、そのスーツ姿が決まっていた。


(俺、まだまだだな……)

挨拶をしている神代は景隆より年下であるが、その堂々とした姿は景隆の理想とする起業家を体現していた。

いずれ、景隆は自分の実力以上にハッタリを利かせる必要があるだろう、そのときのために神代に師事できないだろうかと考え始めたところで、上映が始まった。


***


(うー……やめてぇ……)

映画の序盤では、神代演じる的場が初々しい仕草をしていた。

景隆は自分が起業したばかりの頃と重なり、思わず身悶えした。

神代は出会った頃の景隆をしっかりと観察しており、それを忠実に再現しているためか、景隆は当時の自分を見ているようだった。


(え? そこっ!?)

おそらく柊が脚本を監修したという影響だろう、ITエンジニアや会社経営者なら気づくようなネタが随所に仕込まれており、それが業界外の人が見ても楽しめるように工夫されていた。

景隆と同様にスポンサーとして招待された上村の様子を窺ってみると、ウンウンとひたすら頷いており、ご満悦だった。


(うわっ! カッコイイ)

的場は美園演じる沢木の助けもあり、起業家として目覚ましい成長を遂げていた。

景隆は今の自分に的場を投影しているような感覚に陥り、スクリーンに釘付けになった。

客席では神代のファンやその付添の女性までうっとりした表情をしていたが、景隆はまったく気づかなかった。


(うわっ! マジか……)

そして、クライマックスは的場がサイバー攻撃を撃退する場面だった。

プロモーションビデオで概要は知っていたものの、いざスクリーンで確認すると臨場感が桁違いだった。

そして、雫石という少女が演じる天才ハッカーが見事な演技で的場の脅威として立ちはだかっていた

彼女の配役は年齢的にミスキャストだと思われたが、それも一瞬のことで、神代に引けを取らないほどの演技力で凄みのある敵役を完璧に演じきっていた。


雫石は、エッジスフィアによるさくら放送の買収劇に翔動が介入するきっかけとなった子役だ。

この少女が翔動にとって重要な映画に出演することに、景隆は運命めいたものを感じた。


***


「うわああああぁぁ!」「パチパチパチパチ」


上映が終わり、館内には歓声が沸き起こり、割れんばかりの拍手が鳴り止まなかった。

エンディングの神代と美園のダンスは、客席の気分をさらに高揚させていたようだ。

(俺のアイデアもなかなか良かったじゃないか!)


「こりゃもらったな。にしても、神代さんかっこよすぎだろ……」

景隆は自分の声が震えていることに気がついた。


スポンサーをしている以上、映画が売れる必要があったが、景隆はこのことを心配していなかった。

そして、実際に映画を観たことで、これが確信に変わった。

映画を観たのは学生時代以来だが、ここまで感動したのは初めてだ。


女性客は神代に虜にされたのか、うっとりとしており、目がハートマークになっていた。

中には泣いている子もいる。


映画を存分に堪能した景隆だが、本番はこれからだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ