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第209話 独占取材

「は?」

「実は二宮さんと約束をしていてな。この件が落ち着いたら石動に取材をしたいそうだ」

「聞き間違いじゃなかったぁ」


景隆は以前、メトロ放送のドキュメンタリー番組に出演したことがある。

その番組の進行役がメトロ放送所属のアナウンサーである二宮であった。

どのような経緯があったのか全く聞かされていないが、柊は二宮と強いコネクションがあるようだ。


「前回のとき、石動は神代さんのオマケだったが、今回は船井さんやお前がメインの番組になるらしい」

「この時点で吐きそうなんだけど……」


既に景隆にはテレビ番組の出演依頼の打診がきていたが、返事は保留にしてある。


「考えようによっては、メディアの窓口を一本化できるから悪くないと思うぞ」

「ぐぬぬ……反論できない」


独占取材契約とは特定の人物が一定期間、特定のメディアに対してのみ情報提供や取材に応じることを約束する契約だ。

これにより、そのメディアは他社に先駆けて、あるいは他社には得られない情報や映像を独占的に報じることができる。


つまり、二宮からきているオファーを受けることで、ほかのメディアは景隆に対して取材ができなくなる。

放っておいてほしい景隆にとっては、柊の言うとおり悪くない話と言えるだろう。


「でもメトロ放送って、ついこないだまで会社を乗っ取られそうになったんでしょ? 自虐ネタで視聴率稼ぎでもするつもりなの?」


新田は景隆と柊の話を話半分に聞きながら、モニタを睨みつけていた。

柊によると、『メトロ放送買収劇の裏側』というタイトルの番組で、いかにも衆目の関心を惹きそうな内容であった。


「プロパガンダ的な内容になるんじゃないか? 一時は乗っ取られそうになったが、最後は正義が勝つみたいな展開にするとか」

景隆は他人事ならどれだけ良かっただろうかと思いながら、思いついたことをそのまま述べた。


「石動や翔動(俺たち)の行動が、変なところだけ切り取られて、いつの間にか曲解された報道を勝手にされるよりいいだろう」

「一理あるな……」


マスコミの報道内容は、報道する側の都合でいかようにもできる。

先日、ある政治家が地域活性化に関する講演を行った。

その中で、彼は「地元の伝統文化を尊重しながら、新しい産業を育成することが重要だ」と述べ、具体例として「伝統工芸品の技術を活用した新商品開発」を挙げていた。

しかし、翌日のある新聞記事では、「『伝統文化は時代遅れ』と発言」という見出しが踊り、本文では「新しい産業を育成する」という部分が省略され、あたかも伝統文化を否定したかのような印象を与える内容になっていた。


どうせ報道されるなら一つに集約し、その情報をコントロールできる範囲にしたいというのが柊の意図であろう。

柊は二宮との約束を果たしつつ、景隆の立場も守ろうとしていると思われる。


「その二宮さんはどれくらいの権限を持っているんだ?」

景隆はテレビ局に詳しくないが、番組の責任者はプロデューサーやディレクターだろう。

言い方は悪いが、一介のアナウンサーがどうこうできるようには思えなかった。


「二宮さんは刈谷さんのお気に入りだ、当然刈谷さんは番組に関わってくるし、本人も出演するだろう」

「社長に対して影響力があるってことか!」


二宮は若手だ。

にもかかわらずそれほどの影響力を持っていることに景隆は驚くとともに、柊がその彼女とつながりが深いことが気になった。

(柊の野郎……美女ばかりはべらせやがって……)


景隆は目の前に迫っている厄介事を頭から振り払い、なにやら作業のようなことをしている柊と新田が気になっていた。

「そんで、さっきからお前らは一体何をやっているんだ?」

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