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第208話 目立ちたくない三人衆

「それは災難だったな」

白鳥ビルの会議室で、柊は優雅にコーヒーをすすりながら景隆をねぎらっていた。


「この……ヒトゴトだと思って……」


景隆はいかにも他人事だといった柊の態度に釈然としないものを感じていた。

景隆はこの場にいる柊と新田に、自分が必要以上に目立っていることに不満を漏らしていた。


「一応、悪いとは思っているよ。石動がこの手のことを苦手なのは俺がよく知っているからな」


景隆は子供のころから目立ったり騒がれたりすることが苦手であった。

それは成人してからも同様で、柊の様子を見る限り、これを改善するのは至難の業だと感じた。


「本来であれば、俺も同席すべきだったんだけどな」

「まぁ、それはしょうがないだろ……」

柊は先日の記者会見の場で景隆を一人で立たせたことに申し訳なさを感じていたようだ。


柊を表に出さず、代わりに景隆が前面に出ることは翔動設立時の約束であったため、景隆は今の状況を受け入れること自体には納得している。

さらに、柊から東郷との因縁があったことを聞いてしまった以上、柊を守るためには景隆が盾となるしかない。

ポジティブに考えれば、経営者としての度胸や立ち振舞を身につけるためのいい経験となったことは確かであった。


「わ、私は関係ないからね?」


新田は小難しい顔をしながら、たまにマウスをポチポチとクリックしていた。

普段の彼女はキーボードと一体化しているのではないかというほど、タイピングをしているのだが、今は珍しくマウスを使っている。


(そういえば、柊もポチポチしているな……)

新田とは対照的に柊は余裕を持った様子で時折マウスをクリックしている。

二人は何やら同じ作業をしているようだが、景隆にはそれが何であるか想像もつかなかった。


「新田に表に立ってもらうことはそうそうないから、安心してくれ」


新田も翔動の役員の一人であるが、景隆は新田の存在はできるだけ隠したかった。

彼女が引き抜かれでもしたら、翔動の事業計画が根底から崩れるどころか、存続の危機すら招きかねない。

景隆は新田が自分と同様に目立つことを忌避する性格であることに安堵していた。


「そ、ならいいけど……」

新田は景隆の話に興味がないのか、しかめっ面をしながらマウスを動かしている。


「そんで、どうするよ、これ……」

景隆はようやく会議の議題を切り出した。


翔動――主に景隆に対して取材の依頼が殺到していた。

放送局の買収劇を巡って、世間が大きく賑わっている中、景隆という若い起業家が事態を収拾させたことがさらに大きな話題を呼ぶ結果となった。

多少誇張した表現をするならば、景隆は彗星のように現れたメディアの救世主といったところだ。


今日も自宅前で記者と思われる人物から声をかけられ、相手を刺激しないようやんわりと断りながら一目散に逃げたところだった。

企業の代表者の自宅住所は会社の登記簿謄本に記載されており、誰でも法務局で取得できる。

したがって、今の景隆は逃げ場がない状況にあった。


柊はこの事態を予想していたのか、さらりとこう答えた。


「それなんだが、メトロ放送と独占取材契約を結ぼうと思う」

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