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第207話 有名人

「あ、あのっ! もしかして、石動さんですか?」

デルタファイブのオフィスの近くにある居酒屋で、景隆は会社員と思われる女性に声をかけられた。


この居酒屋はランチタイムに良心的な価格で昼食が食べられるということもあり、デルタファイブ社員にとって人気のランチスポットだ。

景隆は鷺沼、白鳥、鷹山とともに早めの昼食をとっていたところだった。

12時を過ぎるとどの店も溢れかえることになるため、デルタファイブの社員は早めに昼休みを取る者が多く、景隆も例外ではなかった。


「はい、そうですが……」

景隆は声をかけられた女性の顔を確認したものの、思い当たるふしはなかった。

(マズイな……柊には顔と名前を覚えるクセをつけるように言われているのに……)


「昨日の記者会見を見ました! 石動さん、すごくかっこよかったです!」

「は、はぁ?」


景隆は自分の失点でなかったことに安堵したものの、メンドウな予感しかしなかった。

記者会見は日中に行われていたが、この様子は夜のニュースで散々報道されていた。

彼女はそのニュース番組を観ていたのだろうと思われる。


「今日はお仕事でいらしたのですか?」

「え、えっと……私は会社員を掛け持ちしているため、今日は普通に働いています」


景隆はこう言いつつも「普通ってなんだよ!」と自分にツッコミを入れていた。


「ええっ!? じゃあ、この辺にお勤めなのですか!?」

女性はキラキラとした表情で、景隆を見つめている。


「あ、あのご用件は?」

鷹山が不穏な殺気を放っていたので、景隆は会話を早く切り上げるようにした。


「私、石動さんのファンなんです! サインいただけませんか!?」

「は?」


予想外の展開に景隆は思考が追いつかなくなっていた。


「申し訳ありません、私は一般人なので」

「で、ではっ、写真を一緒に撮っていただけませんか?」


景隆は同席している三名を窺った。

(あ、これはそれくらいしてやれよという顔だ)


「ネットに上げないとお約束いただけるなら」

「キャー! ありがとうございます!」


女性の黄色い声に景隆は目がチカチカした。


***


「はぁあああ……」

女性をなんとか退け、景隆は冷めた味噌汁をすすりながら、盛大なため息をついた。


「すごい有名人だねぇ」

鷺沼は新しいおもちゃを見つけた子供のような表情で言った。


『石動さんの良さを知っているのは私だけでいいのに……』

鷹山はブツブツと独り言を言っている。


「外に出たら解放されるかと思ったらコレですよ……」

景隆はデルタファイブのオフィスに出社した途端、同僚らから質問攻めだった。

社内のどこに移動しても声をかけられたり、チラチラと視線を向けられたりで、気が休まるときが全然なかった。


「そのうちみんな慣れてくるよ」

「他人事だと思って……白鳥はなんで機嫌がいいんだよ?」


げっそりとしている景隆とは対照的に、白鳥は憑き物が落ちたように晴れ晴れとした表情をしていた。

鷹山によると最近の白鳥は元気がなかったらしいが、今の彼を見る限りではまったくそうは見えなかった。


「ちょっと悪目立ちする事件があったんだけど、石動が目立ってくれたおかげで助かったよ」

「俺は日除けかよ!」


(そういえば柊には「白鳥には優しくしてやってくれ」って言われてたな……)

オペレーションイージスの成功の裏に、白鳥の犠牲があったことを今の景隆は知る由もなかった。

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